ポイント
この記事では、麻子仁丸についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方」のムセキです。
本記事は、麻子仁丸についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は、麻子仁丸という漢方薬が出ています。このお薬は、便秘によく使われるお薬です。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、便を柔らかくして出しやすくしてくれますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は、麻子仁丸という漢方薬が出ています。このお薬は、便秘によく使われるお薬です。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、便を柔らかくして出しやすくしてくれますので、一度、試してみてください。
通常の下剤とは違い、油で便を包んで滑りやすくするという効果がメインです。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
消化器(食欲不振、腹痛、下痢等)
冷え
添付文書(ツムラ126番)
ツムラ麻子仁丸(外部リンク)
麻子仁丸についての漢方医学的説明
生薬構成
麻子仁、大黄、枳実、杏仁、厚朴、芍薬
出典
傷寒論、金匱要略
条文(書き下し)
「趺陽の脈(ふようのみゃく:陽明胃経の状態を表す脈)浮にして䈷(ふにしてかく:浮いてカッカッカッと渋り打つ脈)、浮なれば則ち胃気強し、䈷なれば則ち小便数なり、 浮䈷相搏てば、大便則ちかたし、その脾約たり(そのひやくたり:胃腸の調子は制限される)、麻子仁丸之を主る。」
条文(現代語訳)
「陽明胃経の脈が浮いてカッカッと渋る脈のもの。その脈が浮けばつまり胃気が強く、渋脈ならば尿の回数は多い。浮渋の両方がある場合は大便は固く、胃腸の調子は制限される。この場合は麻子仁丸が良い。」
解説
今回は、麻子仁丸の処方解説になります。この処方は、一般的に便秘症に使われています。
それでは、まずは条文を見ていきます。
条文は、要約しますと「胃経を表す脈が浮いて渋る(カッカッと拍動時点が短い脈)ものは大便が固く詰まるので、麻子仁丸が良い。」という事です。
脈についての詳しい解説はありませんが、六部定位診(ろくぶじょういしん)という現在最も広く使われている脈診法の場合は、右の手首にある関上(かんじょう)という脈を深く押した時に見られる脈の事を指しています(参考wikipedia)。
実際の臨床上は、脈を見るより患者さんに直接便の状態をお聞きした方が良い気がします。
次に、構成生薬を見ていきます。構成生薬は、それぞれ
潤腸、降気:麻子仁
駆瘀血、清熱、除湿熱:大黄
破気、胃の気滞食滞を除く:枳実、厚朴
肺を潤し、気を下げる:杏仁
肝の補陰:芍薬
の様になります。この処方の特徴は、処方名にもある通り麻子仁を含む事です。この生薬の効果は潤腸と言い、文字通り腸を潤す効果があります。
この腸を潤すというのは、麻子仁の油で腸壁を潤し、便を滑りやすくするという作用です。
また、麻子仁丸証の便はコロコロで固い便となりますので、その便と便の隙間にも油が入り込んで、便自体も柔らかくさせます。
他の生薬についても解説していきます。
漢方医学の胃腸の見方は、西洋医学の様に特定部位のみを見るものではなく、胃腸を一本の管として全体を見ています。
ですので、何処かで詰まりが発生した場合は、それを解消するためにその部位だけではなく、邪気を排出するのを助けるアプローチも同時に行っていきます。
本処方でも、大黄や麻子仁と言った通便させる生薬だけではなく、胃の気の詰まりを除く枳実や厚朴、肺気を下げる杏仁、筋を柔らかくして排便の力を助ける芍薬等の生薬が配されています。
さて、ここからは麻子仁丸証の所見をご紹介します。
条文には脈で判断すると書かれていますが、中々現代の臨床の場では脈を診る事は出来ません。
ですので、その代わりに「便はコロコロで固いですか?」と質問するのが現実的ではないでしょうか。
また、厚朴と枳実、大黄がある事より、瘀血所見(唇が紫色、下腹部のしこり、舌下静脈の怒張等)と厚朴証(我が強い、喉の違和感、食べ過ぎ傾向、よく喋る)の存在が有る事が解ります。
以上まとめますと、麻子仁丸は「便がコロコロで固く便秘があり、瘀血所見(唇が紫色、下腹部のしこり、舌下静脈の怒張等)と厚朴証(我が強い、喉の違和感、食べ過ぎ傾向、よく喋る)がある方に使用する処方。」となります。
本処方は、裏寒と脾虚がある場合は不適になりますので、注意が必要です。
鑑別
麻子仁丸と他処方との鑑別ですが、代表的なものに潤腸湯、調胃承気湯、桂枝加芍薬大黄湯、通導散、大建中湯があります。
それぞれについて解説していきます。
潤腸湯
麻子仁丸と潤腸湯は、両処方共に麻子仁を含み便秘に使用する為、鑑別対象となります。
両処方を比べた場合、麻子仁丸の方が潤腸湯より麻子仁の量が多く、また、血虚症状が無く、肝陰虚が存在します。
即ち、皮膚の色艶はそこまで悪く無く、その代わりに筋肉が固めとなります。
胃気の詰まりは両処方とも同じになりますので、血虚の所見があるかどうか、腹直筋の突っ張りの程度というのが鑑別ポイントとなります。
【漢方:51番】潤腸湯(じゅんちょうとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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調胃承気湯
麻子仁丸と調胃承気湯は、両処方共に便秘に使用する処方であり、鑑別対象となります。
調胃承気湯をはじめとする承気湯というのは、胃に熱があって詰まり、それが原因で気が下がらないものに使用します。
添付文書では便秘の効能となっていますが、元々はそうではなかったという事です。
ですので、漢方医学上は便秘に調胃承気湯を使用するというのはあまり良い手とは言えません。
便を柔らかくする効果もありませんので、この2処方の鑑別は麻子仁丸一択で良いでしょう。
【漢方:74番】調胃承気湯(ちょういじょうきとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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桂枝加芍薬大黄湯
麻子仁丸と桂枝加芍薬大黄湯は、両処方共に便秘に使用する為、鑑別対象となります。
桂枝加芍薬大黄湯は、桂枝湯に芍薬を倍加えた桂枝加芍薬湯に大黄を加えたものになります。腹痛が強く、便が固く出にくい場合に使用します。
桂枝が含まれているという事は、頬が桜色で逆上せ症状が出てくるという事になります。
麻子仁丸にはその様な所見はありませんので、その部分で鑑別が可能となります。
通導散
麻子仁丸と通導散は、両処方共に瘀血や便秘に使用する為、鑑別対象となります。
通導散にも麻子仁丸にも厚朴や大黄が含まれており、どちらが適しているか迷う場合も結構あります。
通導散には麻子仁がふくまれておらず、紅花や蘇木の様な駆瘀血剤が配されています。
この事より、便のコロコロ度合いはそれほども無く、逆に瘀血所見が非常に強く出る事が解ります。その辺りがこの2処方の鑑別ポイントになります。
【漢方:105番】通導散(つうどうさん)の効果や副作用の解りやすい説明
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大建中湯
麻子仁丸と大建中湯は、両処方共に便秘に使用する為、鑑別対象となります。
大建中湯は、他の便秘薬と違い、温性の作用になります。温めながら蠕動運動を活性化し、便を下すという効果です。
冷えて蠕動運動不良が起こっていますので、腸にガスが溜まりやすくなっているのが大建中湯証の特徴になります。
麻子仁丸はその様な所見は無く、便が固く乾燥してコロコロになっています。ですので、その差が鑑別ポイントとなります。
【漢方:100番】大建中湯(だいけんちゅうとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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