
基礎漢方問題集100
こんにちは。「名古屋漢方」ブログのムセキです。
本記事は、漢方臨床でよく出会いがちな症例の練習問題まとめになります。
X(旧Twitter)にて問題を作って投稿し、ブログで公開した問題群へのリンクと、それらの使い方、問題の基本的な解き方について解説しています。
問題は全部で100問あり、全てオリジナルです。以下の作り方で作成しています。
①実際に経験した症例を改変したもの
②身近な人物や出会った方の証を元に作成
③テレビで観た有名人を証決定して作成
そのため、Xでは、「妙に生々しい。」というコメントを頂きました。
実際の証決定が元になっていますので、処方や病気(身体の不調)等の例に偏りがあります。
また、漢方用語については出来るだけ平易なものを使用しておりますが、解らない用語が出て来ましたら、順次ネットや本でお調べ頂くようお願いいたします。
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問題集を作った経緯

漢方勉強は、座学だけ行っていても確実に行き詰ります。何故なら、臨床を行わないと漢方処方の「さじ加減」が解らないからです。
私は、運よく良い先生に巡り合い、体系的に知識と漢方臨床に必要な感覚、さじ加減を教えていただくことができました。
しかし、それが出来ないとどうなるのでしょうか。答えは、「何となく解った気になって、やみくもに自己流で臨床を行い藪に突っ込んでしまう。」です。
江戸時代の漢方医である岡本一抱先生は、「漢方には王道と覇道がある。」と仰っています。前者は「身体の状態に漢方処方を合わせる使い方」で、後者は「身体に対して、処方の言うことを聞かせようとする使い方」です。
前者の例は、「今、身体の芯が冷えておらず、身体つきは中肉中背。食事は取れていて気付かれが酷いということは心の虚状があるから人参養栄湯。」という使い方、後者の例は「人参養栄湯は疲れと気疲れに良いから、これにしよう。」という使い方です。
違いが分かりづらいかもしれませんが、後者は処方の効果が優先され、肝腎の「身体の状態」に対する把握が弱いという特徴があります。
これが安全な処方なら良いのですが、強い処方なら如何でしょうか。
強い逆上せがある場合、前者なら身体の状態を見て冷えがあれば身体を温める処方が出せますが、後者なら熱取りの瀉剤を出してしまう可能性があります。
身体が冷えているのに、更に冷やして事態を悪化させてしまう可能性があります。
自己流の使い方だと、後者の「覇道の漢方」の使い方になりやすく、患者さんを危険に晒してしまいかねません。
本ブログでご紹介する漢方問題集は、私が偉大な先達に教えていただいたことを守り、徹底して「身体の状態に合わせた漢方処方の使い方」で書いてあります。
漢方の先生が近くに居なくても、少しはそのビハインドを縮めることができると思います。
本問題集が、皆様のお役に立てれば幸いです。
漢方臨床の基本

漢方臨床は、基本的に「安全性を優先」させます。あまり知られていませんが、実は、安全性を優先すれば効くようになります。
安全性を優先して漢方を使うには、どうしたらいいのでしょうか。
答えは、「補剤を優先させること」になります。補剤を使って身体の状態を上げていくと、何処かで毒取りのタイミングが訪れます。その時に瀉剤を使用すると、物凄く切れ味鋭い効果が出てきます。
場合によっては、一包飲むだけで良い場合もあります。
私はそのような現象を何度も体験していますので、「漢方は効かない」というのは「漢方の使い方が良くない」と認識しています。
実際は、「身体の状態が整っていないにも関わらず、瀉剤を使用してしまっている。」ということになりますが、言い換えれば、これこそ漢方処方に身体を従わせようとする「覇道の漢方」だと言えます。
本問題集の他に、漢方臨床の基本について一から解説した
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漢方臨床記事まとめ
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もありますので、併せてご参考いただけると幸いです。
繰り返しになりますが、漢方臨床の基本は「捕剤が瀉剤より優先される。」となります。迷ったら基本に立ち戻って考えてみることをお勧めします。
補剤の優先順位

捕剤といっても、様々なものがあります。例えば、腎精を補う地黄という生薬があります。八味地黄丸の主薬ですね。
これは、腎を補い血を補いますが、胃腸(脾胃)に負担が出やすいというデメリットがあります。また、消化事態にエネルギーを使いますので、身体の中心が冷えていても使えない生薬です。
しかし、それらに問題が無く、例えば老化等により腎虚が存在する場合、地黄を使うことを考慮します。
このように、生薬には使う場面があり、臨床においてはそれが頭にすぐ浮かぶようにする必要があります。
そこで重要になるのが、優先順位になります。優先順位のパラメーターは、
①身体内部の冷え(裏寒)
②脾胃の状態
③気の巡り具合
④その他虚状の確認
になり、その優先順位は、例外はありますが「①>②>③>④」になります。一つずつ解説していきます。
①身体内部の冷え(裏寒)
身体内部を温める陽気が衰える「裏寒(りかん)」は、西洋医学風に表現すると「生理機能を維持している熱」になります。
じっとしている時もその陽気は働いており、身体を温め続けています。
この陽気は、ストレス過多で冷飲食やエアコン生活に慣れている現代人では衰えやすく、一見すると元気ですが、身体の内部が冷え切っている為注意が必要です。
裏寒の改善は、全ての病態より優先される事項ですので、患者さんが見えたら真っ先に確認すべき事項になります。
具体的な所見は、顔の中心線にそった部分が青い、その他部分に比べて手首足首が冷えている、生気がない、こむら返りをよく起こす等です。これらの所見があった場合、裏寒を疑います。
裏寒については、
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漢方入門。臨床第一歩目は身体内部の冷え(裏寒)の解消方法を学ぼう!
続きを見る
の記事で詳しく解説していますので、是非ご覧ください。
②脾胃の状態
①のチェックを行ったら、次は「脾胃(ひい)」の状態を確認します。脾胃というのは、西洋医学で言う胃腸機能全般になります。
脾胃の確認は、食欲があるかどうかと身体つきで確認します。
食欲が無く、身体つきも細い場合は人参や白朮等の捕気剤と呼ばれる生薬を考慮します。また、この状態の時は芍薬は脾胃にダメージを与える可能性があるため使用しません。
例えば、裏寒があって脾胃の状態が問題なければ「真武湯」という処方、脾胃の力がなく弱っているようなら「附子理中湯」を使用します。
また、胃に詰まりがある場合や胃が冷えた状態もあります。前者の場合は主に厚朴が、後者の場合は呉茱萸という生薬が使われます。適材適所という訳ですね。
なお、厚朴は胃の詰まりを取る為、瀉剤に分類されます。しかし、胃の詰まりが解消されることで全身への気の供給が良くなりますので、敢えて取り上げています。
漢方には、このような事例が多々ありますので、その都度覚えていくと良いでしょう。
③気の巡り具合
①②をチェックしたら、最後に気(陽気)の巡り具合を見ていきます。①の所で裏寒について、②の所で脾胃の虚についてお話しましたが、それらが一定以上問題無ければ表の気の巡りの改善を考えていきます。
この気は、①の生理機能を保つ陽気に加え、②の脾胃で出来た気や肺から取り込んだ大気の気が合わさったものです。
具体的な条件は、「裏寒所見があまり見られず、食欲があるもの。」となります。体格については、この段階ではそこまで気にしなくても大丈夫です。
気の巡りの良し悪しは、体表に気が巡っているかどうかの判断と言い換えても良いでしょう。
ビルの水道システム等で見られる屋上の貯水タンクと同じで、この気は一度身体の一番上まで引き上げられてから、全身に下り散布されます。
この散布状態が悪いものを「表虚」や「表寒」と表現します。
表虚の場合、要は上に溜まった気が下に降りなくなります。つまり、頭部を中心とする上半身は気が滞留して逆上せ、逆に気が降りてこない下部は冷えてきます。
この病態を改善する生薬が桂枝(桂皮)となります。具体的な所見は、頬の赤みや頭痛、発熱です。
表虚については、
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脾虚の見分け方と漢方治療について
続きを見る
にて詳しく解説していますので、是非ご覧ください。
ちなみに、③の表虚の改善は、①②の視点から見ると「瀉」になりますので、必ず桂枝を使って表を巡らせて良いかは細心の注意を払います。
④その他虚状の確認
補剤の最後はその他虚状の確認になります。
その他虚状の種類は、代表的なものに血虚、腎虚、裏虚、陰虚等があります。
一つずつご紹介します。
血虚
血の不足を血虚(けっきょ)と言います。漢方医学での血というのは、血液だけではなく臓腑を含む組織全体を指します。
ですので、身体全体の充実具合をみて、判断します。
血虚に対する薬剤は補血剤と言います。生薬では当帰、川芎、地黄等が主に補血剤と呼ばれます。
補血剤は、胃腸に負担がかかるものが多い為、使用にはそれらの状態や裏寒にも注意して使用します。
腎虚
血虚の次は腎虚についてです。血というのは腎精から出来ており、では「腎精とは何か?」と言いますと、「両親から自分自身に受け継いだ生きるための根源の力」になります。
西洋医学的に言うと、「遺伝の力」となり、この力は20歳前後で最大になるとされています。
少しあやふやな説明になりましたが、確かに20歳前後が一番身体が出来上がって元気な時期になります。単純に表現すると「若さの力」と言っても良いでしょう。
この腎の力は、歳を取るに従って減衰し、次第に老化していきます。その状態を腎虚と表現しています。
腎虚の場合、下半身に虚状が出る他、全身の潤いの低下、老化現象等が現れます。
漢方治療において、裏寒も無く、脾虚も無く、瀉す邪毒も無い場合、最終的には腎を補う治療をします。つまり、腎虚の治療というのは、漢方治療の最終地点と言えます。
腎を補う生薬としては、地黄が代表となります。他にも、補骨脂(ほこつし)、淫羊藿(いんようかく)、紫河車(しかしゃ)等がありますが、これらは漢方ではあまり出てこず、どちらかというと中医学で使われる生薬になります。
捕腎剤は、補血剤と同様に胃腸に負担がかかるものが多い為、使用にはそれらの状態や裏寒にも注意して使用します。
裏虚
裏虚(りきょ)というのは、全身の栄養不足を指します。漢方医学では、これを「営の不足」とも表現します。
裏虚の方は、素直な性格で疲れやすく、食欲はあれど華奢な身体つきで、逆上せがあり手に汗をかきやすく、便秘気味なのが特徴です。
裏虚の治療薬剤は、芍薬と膠飴(こうい)です。膠飴は麦芽飴ですね。昭和の時代にあった水飴です。
陰虚
陰虚というのは、身体の潤いが不足した状態を指します。具体的には、肺陰虚と腎陰虚が臨床上で見られます。
多いのは肺陰虚で、唇や喉、皮膚粘膜の乾燥や空咳といった所見が見られます。治療薬剤は麦門冬や石膏となります。
腎陰虚は、腎虚に伴う虚熱で、腎を補う地黄や腎熱を去る知母(ちも)が治療薬剤となります。これも結果として肺陰虚を引き起こすことが多いため、肺陰虚と同じような症状を呈します。
中医学でよく出てくる温病は、温邪(うんじゃ)という乾燥を伴う熱邪になり、大きな範疇では、陰虚に含まれます。
瀉剤の優先順位

身体の虚状のチェックが終わって、瀉剤の適応が考えられたら邪実の排出を考えます。
瀉剤の優先順位は、物質の動きやすさ(気体>液体>個体)の順と同じで、気>水>血となります。只、気の異常は残り2つ水・血由来のものもありますので、その辺りはしっかりと見分けていきましょう。
また、瀉法は邪実の排出を行いますが、同時に正気も排出されます。つまり、毒の除去を行うと、身体の状態を虚に傾けてしまうという特徴があります。その部分は十分に注意し、証決定をしていく必要があります。
更に、一見瀉剤が要るように見えて、その所見が身体の虚から来るものもあります。そこに瀉剤を服用させると、大変なことになりますので、十分ご注意下さい。
それでは、気・水・血の排出について、それぞれ簡単にご説明してきます。
気の排出
最初は、気の排出です。漢方医学でよく「気鬱」「気滞」と呼ばれる病態がそれになります。
気分の塞ぎ込みやボーッとする等の所見が特徴となります。
その場合は、それらの症状の原因となっている気を流して取り去る理気問いう治療をします。具体的には蘇葉や香附子という生薬です。
気の留滞があるだけの場合、上記のように流し去るだけで大丈夫なのですが、その気が結ぼれて熱を持つ場合があります。
その場合は、清熱剤が必要となります。清熱剤の代表的なものが、黄連や黄芩、黄柏等の生薬となります。
また、結ぼれた気が上に突き上げて、痙攣や痛みを発する時があります。それらを治療するのが、釣藤鈎や天麻等の生薬になります。
更に、ストレス等で胸脇部で気が詰まり、抜けなくなったものには柴胡や竜胆等の生薬を使用します。
これは、気を直接排出するのではなく、胸脇部で詰まった気を流す目的で使用されます。詰まった気が流れれば、自然と病態が改善に向かいます。
一般的には、この胸脇部の流れをよくするのは「排出」というより「中和」という言葉が使われますが、結局のところ詰まった気を流す為、ここでは「気の排出」で取り上げました。
水の排出
次に、水の排出についてお話していきます。有余の水は、その種類によって「痰」、「飲」、「湿」、「湿熱」等と呼ばれます。
古来、日本ではこれらをまとめて「水毒」と呼び、状況に応じて上記の名前を使用しています。
それぞれご紹介し、水毒に用いられる代表的な生薬もあわせて記載していきます。
痰:粘度の高いドロドロした水毒。半夏や杏仁が主に使われます。
飲:粘度の低い、サラサラした水毒。茯苓や沢瀉、猪苓が主に使用されます。
湿:薄っすらと水毒で湿った状態を指す。粘度については区別しない。白朮、蒼朮、薏苡仁、呉茱萸等が主に使用されます。
湿熱:熱を持ったドロドロベトベトした水毒で、容易に排出されない。竜胆や茵陳蒿等が主に使われます。
水に関する邪気は、その種類によって使用される生薬が変わってきますので、水毒の種類に合った生薬を使うことが大切です。
血の排出
最後に、血の排出についてお話していきます。
血の病理産物を瘀血(おけつ)といいます。血は気血水の中でも一番排出するのが難しく、身体の正気も消耗します。
瘀血を除く薬剤のことを、駆瘀血剤といいます。生薬では、牡丹皮、桃仁、蘇木、紅花、大黄、延胡索等の生薬が代表的な駆瘀血剤となります。
また、西洋医学では手術や抗がん剤等がありますが、それらは漢方医学の目から見ると強力な駆瘀血剤に見えます。
女性の病は、身体の構造上瘀血の処理は付きまといますので、男性の漢方治療よりも複雑で難しいと言えます。
各漢方問題へのリンク

漢方問題は10問ずつ分けています。計100問ありますので、チャレンジしてみてください。
漢方問題第1問~10問
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【基礎漢方問題集100】第1問〜第10問
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漢方問題第11問~20問
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漢方問題第21問~30問
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漢方問題第31問~40問
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【基礎漢方問題集100】第31問~第40問
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漢方問題第41問~50問
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漢方問題第51問~60問
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漢方問題第61問~70問
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漢方問題第71問~80問
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【基礎漢方問題集100】第71問~第80問
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漢方問題第81問~90問
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【基礎漢方問題集100】第81問~第90問
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漢方問題第91問~100問
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【基礎漢方問題集100】第91問~第100問
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さいごに
本記事をお読みいただきありがとうございました。
「基礎漢方問題集100」が、皆様のお役に立てたら本望です。
もし、詳しい説明が必要なようでしたら、本記事で既にご紹介しておりますが
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漢方臨床記事まとめ
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