ポイント
この記事では、加味逍遥散についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方.com」のムセキです。
本記事は、加味逍遥散の解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料としてご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今回は加味逍遥散という漢方薬が出ています。
このお薬は、身体にストレスがかかって、身体の血の巡りが悪くなって不眠や気分が優れない、等の症状が出てくる場合に使います。
どのような症状がありますか?
〇〇といった症状も、ストレスと血の巡りが悪い事から起こっていると診断されたようですね。一度、このお薬を飲んでみて下さい。
身体が冷えてきた、胃腸が気持ち悪い、下痢等の症状があればご一報頂ければと思います。
一日〇回△日出ておりますので、指示通りお飲みください。
漢方医処方の場合の説明
今回は加味逍遥散という漢方薬が出ています。このお薬は、一般的にもよく婦人科で使われる、女性の血の道証の薬になります。
身体にストレスがかかって、身体の血の巡りが悪くなって不眠や気分が優れない、等の症状が出てくる場合に使いますが、その他にも血の巡りが悪い事による症状ならこれで改善します。
どのような症状が主にありますか?
〇〇といった症状も、ストレスと血の巡りが悪い事から起こっていると診断されたようですね。一度、このお薬を飲んでみて下さい。
後は、症状の原因となっているストレスを発散する為に、何か美味しい物や温泉等に出掛けて、気分転換してみては如何でしょうか。
色々な事がありますが、出来るだけ気にされないようにされるとお薬がよく効いてきますよ。
身体が冷えてきた、胃腸が気持ち悪い、下痢等の症状があればご一報頂ければと思います。
一日〇回△日出ておりますので、指示通りお飲みください。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
偽アルドステロン症
肝機能障害、黄疸(AST、ALT、Al-P、γ-GTP等の著しい上昇)
発疹、発赤、そう痒等
食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、腹痛、下痢等
腸間膜静脈硬化症
冷え
添付文書(ツムラ24番)
加味逍遥散についての漢方医学的説明
生薬構成
柴胡3、芍薬3、蒼朮3、当帰3、茯苓3、山梔子2、牡丹皮2、甘草1.5、生姜1、薄荷1
出典
和剤局方
条文(書き下し)
「血虚労倦(けっきょろうけん)し、五心煩熱し、肢体疼痛し、頭目昏重、心忪頬赤(しんしょうきょせき)、口燥咽乾し、発熱盗汗し、減食嗜臥(げんしょくしが)、および血熱相搏(けつねつあいう)ち、月水調はず、臍腹脹痛(さいふくちょうつう)し、寒熱瘧(おこり)のごとくなるを治す。また室女の血弱く陰虚して栄衛和せず、痰嗽潮熱(たんそうちょうねつ)し、肌体るい痩(るいそう)し、漸(ようや)く骨蒸(こつじょう)となるを治す。」
条文(現代語訳)
「血虚の状態で身体が疲れやすく、色々な感情が高ぶり精神的に不安定で、身体のあちこちが痛み、頭が重く、驚いて動悸がしやすく頬が赤くなりやすく、口喉が乾燥し、発熱して嫌な汗が出、食べる量が減って床に臥せやすくなり、血と熱が絡んで月経が整わず、臍を中心として腹が張って痛んで、マラリアのような間欠熱を治します。また、未婚女性が貧血で、陰虚して自律神経失調となり、咳や痰が出て一定時間発熱するというのを繰り返して痩せ衰え、時間が経つと身体の骨から熱が出てくるようになるものを治します。」
解説
加味逍遥散は、桂枝茯苓丸や当帰芍薬散と同じく、婦人科領域でよく使われる処方です。
一般的には不定愁訴の多い女性に使われることで有名です。
この解説を書くにあたって、色々と生薬構成と条文を見比べながら考えていましたが、副作用にある胃腸障害というのは「恐らく条文に惑わされて、使用すべきではない方に使用して失敗した結果ではないか?」と考える様になりました。
その辺りも含めて書いて行きます。
まず、この処方の名前「加味逍遥散」ですが、元々「逍遥散」という処方がありましたが、「それに生薬を追加したもの」という意味になります。
具体的には牡丹皮と山梔子が追加されています。「逍遥」という意味は、「浮き沈み、揺れ動く」といった意味があるようです。
次に条文を見てみます。条文では「血虚して倦怠感があり、身体のあちこちにほてりや痛みがあり、頭が重く頬が赤く、口が渇き・・・」等、何とも要領を得ません。
また、「減食嗜臥」という言葉がありますので「食欲が無い=脾虚」と思いがちになりますが、実はそうではありません(後で解説します)。
最後に、生薬構成を考えてみます。この処方は多味であり、一つの処方内で色々な事をしようとする「欲張り処方」です。
具体的には、柴胡で肝鬱による上下の交通を回復し、芍薬当帰牡丹皮で血を補いつつ瘀血を取り、山梔子薄荷で上焦の邪熱や気滞を去り、朮茯苓で水を去ります。
気血水の流れが、各所において少しずつ詰まって起こる病態だといえます。
しかし、この処方には、脾虚や裏寒の生薬が殆ど含まれていない為、それらの所見が無いかどうかをチェックする必要があります。
もし、脾虚や裏寒証が酷いようなら、本処方は不適となりますので注意が必要です。
それらをまとめますと、本処方は、比較的食欲があり、胃腸もしっかりとしている方で、ストレスが溜まり、眼付きが鋭く不定愁訴の訴えがある血の巡りの悪い女性に使用できる、という事になります。
簡単に言いますと、眼付きの鋭い「ザ・大阪のおばちゃん」という感じでしょうか。3時のおやつを食べながら、ワイドショー見ている、みたいな方に合います。
最後に、条文の中で惑わされやすい「減食嗜臥」について書いておきます。
この「減食嗜臥」と、「肌体るい痩」ですが、そのまま読めば「食欲が無くなりずっと寝ていたくなり、肌が枯れ身体が痩せてくる」となります。
ですが、この条文にある「減食嗜臥」「肌体るい痩」の部分は、脾虚によるものではなく、ストレスによる木克土で食欲が減っているだけになります。
よく、「もうアンタ(お前)なんか知らん!寝るっ!!ご飯?要らない!!」というシチュエーションがドラマ等でありますが、加味逍遥散証はそれが続いている状態です。
生薬構成から考えても、明らかに脾虚ではありません。
実際の臨床では、この条文を「脾虚の患者」と読んで、加味逍遥散を出して胃腸を壊してしまう例が多いです。
逆に、経験からですが実際にはこの証の合う方は、ストレスでお菓子食べ過ぎとかそういう方に向いています。
漢方の条文と言いますか文章は、その言葉の整合性を漢方理論と合わせながら読まないと足を踏み外しますので、注意が必要です。
鑑別
加味逍遥散と他の処方との鑑別ですが、訴えが多いという事を考えますと、同じ柴胡剤で女性によく使われる加味帰脾湯や抑肝散(加陳皮半夏)、滋陰至宝湯が鑑別対象になります。
他にも血の道証の薬がありますが、柴胡証の特徴である目つきが鋭い、ストレスが溜まって不平不満が多い、胸脇苦満等の所見は当てはまりませんので今回は割愛します。
加味帰脾湯との鑑別
加味逍遥散と加味帰脾湯は、鑑別に迷う場合が多い処方です。訴えも似ていますし、顔貌も目つきが鋭い等、よく似ています。
只、加味帰脾湯は、脾虚がありますので、加味逍遥散より食欲が無く、体つきもほっそりとした方が多いです。
脾という臓器は肌肉を主りますので、迷った際は肉付きの良い場合を加味逍遥散、肉付きが悪く食欲もあまり無いようでしたら加味帰脾湯の選択が良いのではないでしょうか。
抑肝散(加陳皮半夏)との鑑別
ここでは加味逍遥散との鑑別の為、抑肝散と抑肝散加陳皮半夏を一まとめにしてお話します。
抑肝散(加陳皮半夏)の特徴として、絶対意見を曲げない、筋張った顔つき体つき、色艶の悪い肌、悪だくみをする、左腹直筋緊張等があります。
簡単に表現しますと、よく物語の悪役で出てくる、眼付きの悪い痩せた魔女みたいな感じが抑肝散等の証になります。
加味逍遥散証はそのような所見よりももう少し肉付きが良く、話せばまだ話を聞いてくれますので、その辺りで鑑別する事が可能です。
滋陰至宝湯との鑑別
滋陰至宝湯の特徴としては、麦門冬がその構成生薬中に配されていますので、粘膜の乾燥、喉の渇き等が強くなります。
咳等がある場合もあります。その他は加味逍遥散証とよく似ていますので、鑑別に苦労する事も多いです。
非理論的な説明で申し訳無いのですが、滋陰至宝湯と加味逍遥散の鑑別に関しては、気の流れを観るか直感で選ぶという事をしないといけない場面も存在します(恐らくは、その場合はどちらでも良いような気がしますが。)
お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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