ポイント
この記事では、潤腸湯についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方.com」のムセキです。
本記事は、潤腸湯についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は潤腸湯という漢方薬が出ています。一般的に便が渇いてカチカチに固くって出にくいものに、便を柔らかくしてお通じをつけるお薬です。
今日はどのような症状でかかられましたか?
〇〇という症状ですね。先生は、このお薬が良いと思われたのだと思います。一度、試しに飲んでみて下さい。
この漢方は、身体が冷えてきたり食欲が無くなったりすると効果が悪くなりますので、体調管理に気をつけて下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は潤腸湯という漢方薬が出ています。一般的に便が渇いてカチカチに固くって出にくいものに、便を柔らかくしてお通じをつけるお薬です。
応用的な使い方には、腸の毒を取るという使い方もあります。今日はどのような症状でかかられましたか?
〇〇という症状ですね。先生は、このお薬が良いと思われたのだと思います。
便通をつける以外に、このお薬にはお肌を良くする効果もありますので、一度、試しに飲んでみて下さい。
この漢方は、身体が冷えてきたり食欲が無くなったりすると効果が悪くなりますので、体調管理に気をつけて下さい。
主な注意点、副作用等
間質性肺炎
アナフィラキシー
偽アルドステロン症
肝機能障害、黄疸
食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、腹痛、下痢等
冷え
添付文書(ツムラ51番)
潤腸湯についての漢方医学的説明
生薬構成
地黄6、当帰3、黄芩2、枳実2、杏仁2、厚朴2、大黄2、桃仁2、麻子仁2、甘草1.5
出典
万病回春
条文(書き下し)
「大便閉結して通ぜざるを治す。~実熱燥閉は本方による。」
条文(現代語訳)
「大便が詰まって通じの無いものを治す。~実熱で便が渇いて詰まるものは本方でよい。」
解説
今回は、潤腸湯の解説になります。
この処方は、傷寒論・金匱要略の麻子仁丸から出発しておりまして、構成としては麻子仁丸(麻子仁、大黄、枳実、杏仁、厚朴、芍薬)から芍薬を除き、代わりに地黄、当帰、黄芩、桃仁、甘草を加えた計10種の生薬からなります。
まず条文を見ていきます。
条文は、文章を区切って潤腸湯に関係する部分のみを抜き出しており、「便が実熱で渇いている場合に、これを通じさせる。」という意味になりあす。
例えば大建中湯等の、冷えて腸の蠕動運動が無いというのとは違います。
この場合は熱で渇いているという事なので、潤わせて便の排泄を促すという治療になります。
次に、冒頭で少し触れましたが生薬構成を見ていきます。潤腸湯は麻子仁丸を元に出発しており、その効能は非常に似ております。
これらの処方に共通しているのは、厚朴と枳実が配されているという事です。この二つの生薬は、胃の詰まりを取り、そこで痞えていた気を下に流します。
そうする事で、便を出す力が復活します。この現象は渋滞と同じで、一旦渋滞を抜けてしまえば前に進む動きが出てくるという理屈です。
杏仁は、肺を潤して痰を出しやすくしますが、その性は温になります。似た様な生薬に麦門冬がありますが、これは微寒になります。
これらの違いですが、杏仁が温性である為に肺燥を潤すと同時に肺機能の賦活(ふかつ:活性化)作用があり、呼吸を深くして気の流れを下向きに加速させ、この作用は麦門冬にはありません。
肺の裏が大腸という事もありますが、厚朴と枳実で胃の詰まりを取ると同時に、肺機能を高めて下向きの気の流れを加速させ、排便を助けます。
黄芩は杏仁と丁度性味が反対になりますので、効き過ぎないようバランスを取るよう配されています。
後は、地黄・当帰・麻子仁で腸管を潤し、大黄で排便させます。
芍薬は、陰水が血に乗って全身を巡ると腸管への効果が薄まりますので抜かれているものだと思われます。
潤腸湯は、麻子仁丸のように、便の後ろ側から潤すのではなく、粘膜から染み出すような地黄当帰の作用で、全体的に便を潤す効果が追加されているのが特徴的です。
また、厚朴や大黄という瀉剤が配された処方になりますので、脾虚裏寒が存在する場合は不適になります。
最後に、潤腸湯の目標をまとめますと、「裏寒脾虚がなく、胃の詰まり(雰囲気、表情が硬い、頑固、我が強い)があり、皮膚粘膜が乾燥して色艶の悪い者で、瘀血所見があり、便が乾燥して固く詰まって出ないもの。」
になります。
鑑別
潤腸湯との鑑別ですが、便通をつける代表的なものとして、麻子仁丸、大建中湯、調胃承気湯、大黄甘草湯、桂枝芍薬大黄湯、通導散があります。
各処方について、簡単にですが解説していきます。
麻子仁丸
潤腸湯の処方構成の出発点となった処方です。麻子仁丸は、麻子仁の量が潤腸湯より多く、また、血虚症状が無く、肝陰虚が存在します。
即ち、皮膚の色艶はそこまで悪く無く、その代わりに筋肉が固めとなります。
胃気の詰まりは両処方とも同じになりますので、血虚の所見があるかどうか、腹直筋の突っ張りの程度で鑑別する事になります。
大建中湯
大建中湯と潤腸湯は、原因が逆になります。つまり、大建中湯は大腸が冷えて動かない、潤腸湯は便が固くて出ない、という事になります。
ガス満は大建中湯に多く見られ、また、胃の詰まりは潤腸湯に見られますので、顔つき等(固い顔つきは胃が詰まっている方に多い、自分の話をしたがる、固い雰囲気、我が強い)でも鑑別が可能です。
また、お腹を触った場合、潤腸湯は熱を蝕知し、大建中湯は冷えを蝕知します。他にも患者さんの便の状態を聞くという方法があります。
例えば、軟便で便秘という事ですと大建中湯の可能性が高く、固くコロコロの便で出にくい場合は潤腸湯や麻子仁丸の場である可能性が高くなります。
調胃承気湯
調胃承気湯は、傷寒の裏熱実でせん妄やうわ言等の精神異常が出てきた場合に使われる処方です。
便通をつける薬としては条文には一か所しか書かれておりません。
使われる場面が急性疾患であり、潤腸湯のように胃が詰まる(固い顔つき、固い雰囲気、自分の話をしたがる、我が強い)事も便が渇いて固く詰まるような事もありません。
その辺りを鑑別して用います。
大黄甘草湯
大黄甘草湯は便通を付ける薬としては条文には出て来ず、胃の動きをつける薬として出てきます。
結果として便は出ますが、便を出す薬としては作られていませんので、注意が必要です。
調胃承気湯と同じ様に、便が固く乾く事は無く、また、胃が詰まる(固い顔つき、固い雰囲気、自分の話をしたがる、我が強い)事や血虚で皮膚の色艶が悪い事もありません。
潤腸湯との鑑別は、その辺りで可能です。
桂枝加芍薬大黄湯
桂枝加芍薬大黄湯と潤腸湯との鑑別ですが、桂枝加芍薬大黄湯は桂枝加芍薬湯に大黄を加えた薬方であり、基本的な効能は桂枝加芍薬湯になります。
つまり、「逆上せで頬が桜色で、手が熱くて汗をかいて、両腹直筋が緊張して便が出にくいもの。」が目標になります。
また、雰囲気が固いという潤腸湯とは逆に、素直な印象の方が多いのが特徴になります。
通導散
通導散と潤腸湯との鑑別ですが、通導散は潤腸湯より瘀血の程度が酷く、顔が真っ赤で精神異常を来しかけている場合に使用します。
例えば、交通事故後のむち打ち症、全身打撲等に通導散は非常によく合います。
潤腸湯にはその様な所見はありませんし、潤腸湯とは使う場面が全く違いますので、その部分で鑑別が可能になります。
お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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