ポイント
この記事では、調胃承気湯についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方.com」のムセキです。
本記事は、調胃承気湯についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は、調胃承気湯という漢方薬が出ています。このお薬は、主に便秘の場合によく使われるお薬です。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、便を出してスッキリさせますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は、調胃承気湯という漢方薬が出ています。このお薬は、主に便秘の場合によく使われるお薬です。
昔はうわ言を言ったり、身体に熱が籠もってお腹が張る場合に対する漢方として作られました。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、便を出して身体の熱を下げさせてくれますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
主な注意点、副作用等
偽アルドステロン症
消化器(食欲不振、腹痛、下痢等)
冷え
添付文書(ツムラ74番)
ツムラ調胃承気湯(外部リンク)
調胃承気湯についての漢方医学的説明
生薬構成
大黄2、甘草1、芒硝0.5
出典
傷寒論
条文(書き下し)
「胃気和せず、譫語(せんご:うわごと)する証。」
「発汗の後、悪寒せず、ただ熱する証。」
「陽明病、吐せず、下らず、心煩する証。」
「傷寒、吐して後、腹脹満する証。」
条文(現代語訳)
「胃気が正常に働かず、うわ言を言うもの。」
「発汗した後で、悪寒も無く、ただ熱い証。」
「陽明病で、吐かず下らず、胸苦しく悶えるもの。」
「傷寒で、吐いた後、腹部が張るもの。」
解説
今回は調胃承気湯の処方解説になります。本処方は胃熱を取る陽明病の薬として開発されていますが、現在ではその効能の中核部分である便秘のみの適応となっています。
ですので、本来の効能を出す為には条文を見る事が必須と言えます。それでは、条文を見ていきます。
条文は幾つかに分かれていますが、ポイントは以下の3点になります。
①うわ言や心煩等の精神症状がある
②陽明病で裏熱がある
③便秘がありお腹が張る
逆に言いますと、これらの所見に当てはまらない場合は使用出来ない処方となります。単に便秘の薬という訳では無い事がここで解ります。
陽明病というのを言い換えますと、胃熱実・裏熱の所見(壇中熱・顔の中心が赤い、症状が激烈等)が必要という事になります。応用としては、便秘でお腹が張り、冷えの所見は無く身体全体に熱がある場合は適応となります。
よく子供の熱で、便を出すと引くことがありますが、それと同じ現象だと言えます。
次に、構成生薬を見ていきます。調胃承気湯は大黄、甘草、芒硝の3種類で非常に少ない生薬で組まれています。
つまり、この処方は芍薬甘草湯等と同じ様に、急性期の頓用として作られたものだと言えます。
ですので、長期連用には向かない処方だと言えます。長期連用や証を間違えると脾胃を壊して身体を冷やし、少陰病に落ちてしまいます。
この事は大黄剤全般に言えますので、注意が必要です。
調胃承気湯に限って言えば、上で挙げた条文のポイント3つを守って使用すれば、証を間違えない限りは大丈夫です。
ちなみに、証を間違える可能性のあるのは裏寒外熱になります。これは真寒仮熱とも言う状態で、身体の芯が冷えて、表面が熱いという状態になります。
この証の場合は四逆湯系統を使用します。
裏寒外熱の場合は、壇中冷や手首足首が熱が吸われるように冷えている、身体の中心部が青黒い(顔の正中等)等があります。
裏熱と裏寒は、正反対の病態になりますが、出てくる症状としては同じような所見になる場合もあります。この辺りはしっかりと鑑別が要ります。
鑑別
調胃承気湯と他処方との鑑別ですが、代表的なものに温裏剤全般、潤腸湯、桂枝加芍薬大黄湯、通導散、大建中湯等があります。それぞれについて解説していきます。
温裏剤全般
調胃承気湯が陽明病の薬である為、少陰病の薬である真武湯、茯苓四逆湯、四逆加人参湯、四逆湯、附子理中湯等の温裏剤とは鑑別対象となります。
陽明病の場合は裏熱ですので、身体の中心部に熱があります。逆に、少陰病ですと裏寒になりますので、身体の中心部は冷え切っています。
上の解説にて触れていますが、原因は正反対でも出てくる所見が非常に似ている場合があります。これを間違えると、患者さんの体調を余計悪くしてしまいます。
ですので、この鑑別は漢方治療を行う上で、一番気を付けるべきものになります。
これら二つの見分け方ですが、裏寒の場合は身体の中心部を反映する部分(手首足首、壇中、顔の中心線)に冷えの所見があります。
つまり、壇中のツボ(胸の中心)や手首足首が冷えて、触ると熱が吸われる様に冷たいのが解ります。また、顔の中心部が青白い青黒い、目に力が無い等の特徴があります。
これらの所見があったら冷えと判断した方が無難だと言えます。更に言いますと、便秘も冷えが原因になって起こる場合もありますので、「便秘だから陽明病」と覚えるのは危険です。
使い分ける際には、必ず冷えが全然無い事を確認しておきましょう。
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潤腸湯(麻子仁丸)
潤腸湯(麻子仁丸)と調胃承気湯は、共に便秘の状態に使う処方で、鑑別対象となります。
潤腸湯と麻子仁丸には、共に麻子仁という生薬を含みます。この生薬は油を大量に含み、便を油で滑りやすくする効果があります。
ですので、潤腸湯や麻子仁丸を使用する場合は便の状態が兎の糞みたいにコロコロと固いのが特徴となります。
調胃承気湯の場合、そこまで乾燥が無く、また、便秘意外に身体全体に熱を持つ、うわ言や胸苦しくなったりする等の精神症状があるのが特徴となります。
麻子仁配合処方の場合、陰虚になりやすい高齢者に合う場合が多いのが特徴となります。
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桂枝加芍薬大黄湯
桂枝加芍薬大黄湯と調胃承気湯も、同じく便秘に使用する処方ですので鑑別対象となります。
桂枝加芍薬大黄湯は、元々桂枝加芍薬湯という処方が出発点となっています。
ですので、その処方に特徴的な両腹直筋の緊張や手掌反熱(掌が熱い)、手掌発汗(掌から汗が出る)、逆上せて頬が桜色といった所見があるのが特徴です。
調胃承気湯にはその様な所見は無く、身体の中心が熱を帯び、精神症状を伴う場合があります。
通導散
通導散と調胃承気湯も、どちらも便秘に使用する処方ですので鑑別対象となります。
通導散は厚朴剤であり、また、瘀血があるのが特徴となります。ですので、調胃承気湯の所見に加え、狂ったように食べる、唇や舌下静脈等が紫色等の瘀血所見が加わります。
その部分が調胃承気湯との鑑別ポイントとなります。
大建中湯
大建中湯も調胃承気湯と同じく便秘に対する処方となり、鑑別が必要となります。
大建中湯は、腸が冷えて動かずガス満があるのが特徴で、調胃承気湯が陽明病の処方で、裏熱により身体が熱いのとは似ても似つかない所見となります。
ですので、下腹部のガス満があれば大建中湯、裏熱でうわ言等を発しているようなら調胃承気湯という鑑別になります。
お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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