こんにちは。「名古屋漢方」ブログのムセキです。
本記事は、黄耆(オウギ)についての解説記事になります。日本薬局方収載の生薬のうち、日本で使われている漢方処方に配されているものを抜粋しています。
名前(日本名、ラテン名、英名)と写真、基原、製法、成分、性味・帰経、本草書(昔の薬草辞典)の記載、注意、私の考察(私見)、代表処方中の役割をご紹介します。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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生薬名
日本語名
黄耆(オウギ)
ラテン語名
ASTRAGALI RADIX
英名
Astragalus Root
写真
※写真を見ていただくと解りますが、黄という文字が入る通り黄色い生薬です。
基原
マメ科(Leguminosae) のキバナオウギ Astragalus membranaceus Bunge又は Astragalus mongholicus Bungeの根
製法
マメ科(Leguminosae) のキバナオウギ Astragalus membranaceus Bunge又は Astragalus mongholicus Bungeの根を水で洗い日干しする。
成分
イソフラボン類(フォルモノネチン等)、アミノ酸類( l-カナバニン、γ-アミノブチル酸、サポニン類((アストラガロサイド I~VII)、イソアストラガロサイド I~II、サイクロアラロサイド C等)
性味・帰経
性味
味:甘
性:微温
※微寒(涼)となっている書籍もあります。実際、どの側面から見るかによって、寒熱の性が変わります。
帰経
帰経:肺、脾
本草書の記載
肺気を補い、皮毛を実し、胃の気を益す。癰疽(ようそ:できもの)に久しく敗れたるものの、瘡(そう:傷)の膿を排膿させ、肌熱をさり。喘咳を治し、虚労、自汗、腎の萎えからくる耳の聞こえにくいものを治す。口渇を止め、五臓の悪血を逐い、崩帯(ほうたい:出血の多いおりもの)を療す。
注意
黄蓍の主作用は表の分散を収束し、気を外に漏らさないのを主とする。故に、発散しなければならない外邪が存在するときには、これを用いることにより、内向させてしまうことになる。面黒く、形気ともに実し、痩せている者には用いることは出来ない。右の寸口の脈が実している者には用いられない。黄蓍は気を実しさせ、肺気を満たせしむるものである。故に肺に、気爵結し、胸満しているものには用いることは出来ない。おおよそ、肥えているものは、肺気の不足である場合が多く、黄蓍の適応症である。これに比して痩せている者は肺気が実になっているものが多く、使いがたい。黄蓍を使うと胸満(きょうまん:胸苦しさ)を誘発する。
考察
手の太陰肺経、足の太陰脾経に入る生薬です。黄蓍はこの二経の気分の薬剤となります。
本生薬の効は、結果的に太陰肺経足の太陰脾経を巡らすもので、薬味が直に経絡に作用するわけではありません。
黄蓍は脾から肺の機能を賦活させ、肺虚によって皮膚面に拡散した湿を、身体の内部に戻し、水分が経を阻害しているのを除く作用を持ちます。
肺気虚が主な原因となって脾から肺にかけて虚状を呈すると、肺経に気が足りず滞りを見せるため、結果として黄耆は肺経を賦活させる様に見えます。
黄耆は、人参と合わせてよく元気を補います。人参は補気を、黄蓍は気を収束収斂させる為、相補的に働く為によく組み合わせて使用されます。
また、甘草と併せて肺胃を補助し、防風と併用してよく表にその効を届かせます。人参や黄耆のほかに、益気剤としてこれほど多用される生薬はありません。
肺気を補うと言うことは、皮膚の皮毛を実しさせることであり、これらの気分を補う聖薬とされています。
気を補うという効果は、気の無駄な発散を防衛するという意味でもあり、皮毛を閉じ、皮膚の気の発散を抑えて裏に肺気を満たす薬剤となります。
この薬剤、精気の漏れいずるのを防ぐ効果を有します。人参と併用することにより、人参は穀気を転じ気分に変え、肺に備蓄する作用を有している為、その作用は増強されることになります。
また、黄蓍は表を収め、気分の聖薬とは言っても、その作用は遅いという特徴があります。
これに防風を併用することによって、その作用は早くなります。従って、皮膚を引き締めるような効果を期待するときは、防風と併用することが望ましいと言えます。
癰疽は一朝一夕にて、発症するものではありません。長期間にわたって気血が滞り、肌肉に生じるものです。
多くの場合は、中年以降にこの患いが出てきます。そして、多くの場合は虚をかねています。この様な場合は、膿が内向してなかなか出てこないものです。
この様なときに黄耆を用いて表を収束して、内から気を張らすと、膿は内から外に押し出され、潰れやすい状態となります。
そして、潰れてしまった後も、黄耆剤を用いれば、内より肉が盛り上がりやすくなります。これは黄耆剤の最も得意とするところであります。
黄耆の使用注意点です。黄耆は結果として肺気を実しさせる生薬の為、細マッチョのように気が密となり実しているものには不適です。
「右の寸口の脈の実」ですが、右の寸口脈は肺の状態を表していますので、その部位が実である場合は不適となります。
また、これは仮説ですが、脾から肺への流れを益するということは、脾にとっては若干虚になる可能性があります。
そのため、脾胃の状態を見極めて使う必要があると考えています。あまりにも脾胃の虚がある場合は、先ずそちらを立て直してから黄耆を使うことを検討しています。
代表処方
黄耆建中湯
黄耆建中湯は、小建中湯に黄耆が足された処方です。黄耆は、結果的に肺気が増しますので、小児のアトピー等皮膚の状態を改善させます。
黄耆建中湯については、下記の記事にて詳しくご紹介しています。是非ご覧ください。
【漢方:98番】黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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十全大補湯
十全大補湯は気血両補剤と言われ、頑張りすぎて気血を消耗し、疲れこんでいる場合に使用されます。補気剤と補血剤を足したものに、黄耆と桂枝が入ることで、身体の動きも改善させます。
十全大補湯については、下記の記事にて詳しくご紹介しています。是非ご覧ください。
【漢方:48番】十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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補中益気湯
補中益気湯は、「補気剤の中で最も使われている」と言われますが、その実は気血両補剤です。その中で、黄耆は主に肺の気を益す為に配されています。
補中益気湯の目的は、とにかく肺気を益すというものである為、君薬として黄耆が使われていると言えます。
補中益気湯については、下記の記事にて詳しくご紹介しています。是非ご覧ください。
【漢方:41番】補中益気湯(ほちゅうえっきとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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防已黄耆湯
防已黄耆湯は、色白で水太り体形の方によく使われます。丁度、肺気実の「痩せて色黒」という方とは正反対ですね。
肺気虚と皮膚の水滞の薬となります。その病態の改善に、黄耆が使われています。
防已黄耆湯については、下記の記事にて詳しくご紹介しています。是非ご覧ください。 続きを見る【漢方:20番】防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)の効果や副作用の解りやすい説明
最後に
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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