
九味檳榔湯
ポイント
この記事では、九味檳榔湯についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方」のムセキです。
本記事は、九味檳榔湯についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。

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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明

一般的な説明
今日は、九味檳榔湯という漢方薬が出ています。このお薬は、胸が詰まって身体が浮腫んで気分が塞いで、という場合によく使われるお薬です。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、胃の詰まりを取って、症状を改善させてくれますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は、九味檳榔湯という漢方薬が出ています。このお薬は、胸が詰まって身体が浮腫んで気分が塞いで、という場合によく使われるお薬です。昔は脚気によく使われていました。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、胃の詰まりを取って、身体の循環を良くして症状を改善させてくれますので、一度、試してみてください。
食事を少なめにすると効果が良くなりますよ。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
偽アルドステロン症
過敏症(発疹、発赤、そう痒等)
消化器 (食欲不振、腹痛、下痢等)
冷え
添付文書(コタロー311番)
コタロー九味檳榔湯(外部リンク)

九味檳榔湯についての漢方医学的説明

生薬構成
檳榔子4、厚朴3、桂皮3、橘皮3、蘇葉1.5、甘草1、大黄1、生姜1、木香1、呉茱萸1、茯苓3
出典
浅田方函
条文(書き下し)
「脚気腫満(かっけしゅまん:脚気等の水毒で手足やお腹が腫れる),短気(たんき:呼吸が短い),及び心腹痞積(しんぷくひしゃく:胸が痞える),気血凝滞(きけつぎょうたい:気血が滞る)する者を治す。」
条文(現代語訳)
「脚気の水毒で手足やお腹が腫れ,呼吸が浅く,胸が痞え,気血の流れが滞る者を治す。」
解説
今回は、九味檳榔湯の処方解説になります。この処方は、一般的に強い咳に使われています。
それでは、まずは条文を見ていきます。条文は、要約しますと「脚気等の水毒で手足やお腹が腫れ、呼吸短く胸が痞えて気血の流れが悪いものを治す。」となります。
脚気というと、今ではビタミンB1の不足による病態と判明しておりますが、当時は原因不明でした。
また、現代では脚気ではないとされているものも脚気となっていた可能性もありますので、本記事では脚気「等」としました。
少し適応を広げ、「水毒による気血の詰まり」の方が使いやすいと思います。
勿論、適応の過剰拡大のリスクがありますので、証決定は慎重に行う必要があります。
次に、構成生薬を見ていきます。構成生薬は、それぞれ
胃の詰まりを取る、健胃、胃を温め水毒を除く:檳榔子、厚朴、橘皮、生姜、呉茱萸、茯苓
表を補い、経を巡らせる:桂皮
蘇葉、木香
緩和、諸薬をまとめる:甘草
清熱瀉下、解毒:大黄
の様になります。処方名が「九味檳榔湯」で、元々は茯苓と呉茱萸はありません。便秘が無い場合に大黄を去って茯苓と呉茱萸を加えるのが本来の使用法となります。
しかし、一般的には大黄が入ったものに茯苓と呉茱萸を加える為、生薬は11味となっております。
本処方の構成生薬で、要となる生薬は檳榔子と厚朴です。
檳榔子はヤシ科ビンロウの実を乾燥したもので、胃が非常に固く詰まっていて厚朴だけだと足りない場合に使用します。
なので、基本的に厚朴と一緒に使う事が前提の生薬となります。
結局の所、水毒というのは胃が冷えて動きが悪くなって起こりますので、胃を温めて乾燥させてやれば良いという事になります。
その効果プラス、胃が固くなって動きが悪くなっているのを改善するというのが本処方の効果の中心となります。
胃が詰まって身体の上半身に気滞が出来て、気分が優れないので、それらを改善する理気剤や表虚の改善薬が配されています。
ちなみに、大黄は便を出すのが目的ではなく、腸を動かして胃の下降する働きを改善させようという働きを狙っています。
ここからは九味檳榔湯の所見をご紹介します。
九味檳榔湯は、厚朴が入っているので食滞による胃の詰まりが存在します。脾胃が弱って動かないという訳ではなく、食べ過ぎて胃が詰まるという現象です。
また、檳榔という生薬は胃の詰まりが激しく、ガチガチになっているものを解消します。
厚朴が入っている厚朴剤の共通の所見として、「顔が固い、頑固、よく喋る、我が強い、食べ過ぎ飲み過ぎ。」等の特徴があります。
九味檳榔湯もその特徴が顕著に現れ、また、胃の詰まりが酷い為に胸苦しい、気分がすぐれない、頭に何かがかぶさったような感じがする、等の症状も出てきます。
更に、胃に食滞がある訳ですから、口臭も出てきます。
その様な所見があって全身に浮腫み等の症状があるなら、九味檳榔湯の検討も必要になります。間違っても脾虚ではないという所がポイントですね。胃の掃除の処方です。
以上まとめますと、九味檳榔湯は「顔が固い、頑固、よく喋る、我が強い、食べ過ぎ、飲み過ぎ等があって胃が詰まり、身体が浮腫んで気分が塞ぐもので、時に便秘があるもの。」となります。
本処方は食べ過ぎ傾向の処方ですので、食事を控えめに指導すると効果が高まります。また、裏寒や脾虚の場合は不適なので注意が必要です。
鑑別
九味檳榔湯と他処方との鑑別ですが、代表的なものに茯苓飲合半夏厚朴湯、平胃散、通導散があります。それぞれについて解説していきます。
茯苓飲合半夏厚朴湯
九味檳榔湯と茯苓飲合半夏厚朴湯は同じ厚朴配合処方であり、所見も似ている為鑑別対象となります。
茯苓飲合半夏厚朴湯の所見と九味檳榔湯の所見は非常に似通っています。ですが、九味檳榔湯の方がよりキツイ胃の詰まりがあり、身体が浮腫んでいます。
茯苓飲合半夏厚朴湯の場合、どちらかというと痩せ型になりますので、その辺りで鑑別が可能です。
また、九味檳榔湯は桂皮を含みますので、頬が桜色です。茯苓飲合半夏厚朴湯はその所見はありません。
もし迷ったら、先に茯苓飲合半夏厚朴湯、ダメなら九味檳榔湯でも良いでしょう。同系統の処方であり、作用の強弱しかないのでその様な判断が出来ます。
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【漢方:116番】茯苓飲合半夏厚朴湯(ぶくりょういんごうはんげこうぼくとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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平胃散
九味檳榔湯と平胃散は同じ厚朴配合処方であり、所見も似ている為鑑別対象となります。
平胃散は、厚朴剤のグループの中でも特に食べ過ぎている場合の処方です。そして、よく喋ります。
九味檳榔湯の所見で「気分の塞ぎ込み」がありますが、平胃散にはありません。ですので、ニコニコして「自分が自分が」という風に喋ります。
その辺りの違いが鑑別ポイントとなります。
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【漢方:79番】平胃散(へいいさん)の効果や副作用の解りやすい説明
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通導散
九味檳榔湯と通導散は同じ厚朴配合処方であり、所見も似ている為鑑別対象となります。
通導散は紅花や大黄、蘇木と言った駆瘀血の生薬が多数配合されています。また、芒硝等も含み、便秘が酷い為に顔が赤黒いのが特徴です。
丁度、鬼の様な形相ですね。承気湯加減ですので、その様な所見になります。
九味檳榔湯は、駆瘀血の生薬は大黄しかなく、それもこの大黄の目的は胃の詰まりを取る為に腸から気を引っ張り落とす目的となります。
通導散は瘀血所見があり、九味檳榔湯には瘀血所見が無いという点が鑑別ポイントとなります。
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【漢方:105番】通導散(つうどうさん)の効果や副作用の解りやすい説明
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お読み頂きありがとうございます。

以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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