ポイント
この記事では、二朮湯についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方.com」のムセキです。
本記事は、二朮湯についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は、二朮湯という漢方薬が出ています。このお薬は、肩こりや四十肩の場合によく使われるお薬です。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、肩から腕の痛みや引きつりを取ってくれますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は、二朮湯という漢方薬が出ています。このお薬は、肩こりや四十肩の場合によく使われるお薬です。胃のお弱い方に出るイメージが強い処方になります。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、肩から腕の痛みや引きつりを取って、また、胃腸の調子も良くしてくれる漢方薬です。一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
間質性肺炎
偽アルドステロン症
肝機能障害、黄疸
冷え
添付文書(ツムラ88番)
ツムラ二朮湯(外部リンク)
二朮湯についての漢方医学的説明
生薬構成
半夏4、蒼朮3、威霊仙2.5、黄芩2.5、香附子2.5、陳皮2.5、白朮2.5、茯苓2.5、甘草1、生姜1、天南星2.5、和羌活2.5
出典
万病回春
条文(書き下し)
「痰飲雙臂(そうひ:両腕)痛むものを治す。又、手臂(しゅひ:腕の内側、肉のついた部分)痛むを治す。これ上焦の湿痰経絡中を横行して痛みを作(さく)すなり。」
条文(現代語訳)
「痰飲の邪により両腕が痛むものを治す。又、腕の内側の肉のついた部分が痛むのを治す。この様な症状は、上焦の湿痰が経絡中を横行する事で起こる。」
解説
今日は、二朮湯についての解説になります。本処方は、一般的には四十肩をはじめとする肩のコリ等に使われています。
それでは、最初に条文を見ていきます。条文は、万病回春からの出典で、要約しますと「湿邪による腕の痛みに使用する処方。」となります。
条文から考えると、単に「肩こりに二朮湯」とは言えない所があります。この辺りは、構成生薬を見てからもう少し深堀りした方が良さそうです。
次に、構成生薬を見ていきます。構成生薬は、グループ分けしますと、
去痰、利水:天南星、半夏、蒼朮、白朮、茯苓、生姜
健胃:半夏、蒼朮、白朮、生姜、陳皮
止痛:威霊仙、和羌活
鎮痙:天南星
祛風湿:威霊仙、和羌活、天南星
肺の清熱:黄芩
利気:香附子
諸薬をまとめる、緩和:甘草
の様になっています。
構成生薬が多く、グループ分けも細かいのでちょっと分かりにくいと思いますが、それほど難しい処方ではないです。
これらの生薬を、もっと大雑把に分けて整理しますと、二朮湯の構成は、
①利水健脾
②祛風湿&止痛鎮痙&利気&肺清熱
⑤諸薬の調和
の3つの効果群から成り立ちます。
①についてですが、腕の痛みが出る部分は肉のついた部分と条文にあります。これは、肌肉を指し、筋肉以外の肉部分になり、脾の管轄となります。
そして、このことは同じ脾の管轄である胃の調子も悪いことを指しますので、湿邪が溜まっているのは肩や腕だけでなく、脾胃にも同じ様に溜まっている事になります。
ですので、胃腸症状(胃部不快感、みぞおちの張り等)も二朮湯には出て、体格はどちらかというと中肉中背からやせ型で、食欲は残っている方(人参が配されていない為)が対象となります。
秋葉哲生先生の「活用自在の処方解説」には、「胃アトニー傾向のある寒虚湿証者、ことに湿の著しいものの五十肩、頸腕症。」とあります。
②については、上で書かせていただいた通り威霊仙、和羌活、天南星がキョ風で、黄芩が肺の清熱になります。
それぞれ、威霊仙が腕全体の止痛、和羌活が関節部の止痛、天南星が腕全体の鎮痙を主体とした祛風の作用で、黄芩は肺の清熱を行う事で手太陰肺経と手陽明大腸経の熱を瀉します。
手太陰肺経と手陽明大腸経は腕の表裏を走る経絡になりますので、二朮湯の条文と内容が一致しています。
また、黄芩の肺の清熱がありますので、顔の鼻の辺りが赤くなることもあります。
ですので、これらの生薬が適応する所見としては「腕全体の引き攣る様な痛み」という症状が導かれます。
以上をまとめますと、二朮湯は「胃腸症状(胃部不快感、みぞおちの張り等)があり、場合によっては鼻の辺りが赤くなり、中肉中背からやせ型で、食欲は残っている方の腕全体の引き攣る様な痛みに使用する処方。」と言えます。
本処方は、裏寒や著しい脾虚がある場合には不適となりますので、注意が必要です。
鑑別
二朮湯と他処方との鑑別ですが、代表的なものに葛根湯、疎経活血湯、大防風湯があります。それぞれについて解説していきます。
葛根湯
二朮湯と葛根湯は、共に肩こりに使う処方であり、鑑別対象となります。
葛根湯は、寒邪により太陽膀胱経が詰まり、汗が出ず発熱し、首筋が張るという所見を出します。つまり、肩のコリが横ではなく縦に首筋に沿って現れます。
二朮湯は、その痛みが手太陰肺経と手陽明大腸経に沿って出ますのでどちらかというと横、腕までその症状が出てきます。
また、葛根湯は胃腸が問題ない場合に使いますので、胃部不快感等はありません。
それらが鑑別ポイントとなります。
続きを見る【漢方:1番】葛根湯(かっこんとう)の効果や副作用の解りやすい説明
疎経活血湯
二朮湯と疎経活血湯は、共に祛風湿の処方であり、鑑別対象となります。
疎経活血湯は、竜胆や防已、桃仁、牛膝といった生薬を含み、下焦を中心に風湿、瘀血等を取る処方となります。ですので、痛みが下半身に主に出ているのが特徴です。
また、疎経活血湯は、日頃から無理な体制で仕事をしていて足腰に痛みが来したものに優れた効果を発揮する事が多い処方になります。
上半身中心に効いてくる二朮湯とは対照的な処方と言えます。
続きを見る【漢方:53番】疎経活血湯(そけいかっけつとう)の効果や副作用の解りやすい説明
大防風湯
二朮湯と大防風湯は、共に痛みに使う処方であり、鑑別対象となります。
大防風湯は、気血両補剤+補腎剤+温補という組み合わせとなっています。ですので、その所見に気血両虚の証が出てきます。
気血両虚の証は、全身が疲れているのがポイントになります。また、二朮湯の様に上半身に症状が限定されているという訳ではありませんので、その辺りで鑑別が可能となります。
お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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