ポイント
この記事では、神秘湯についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方.com」のムセキです。
本記事は、神秘湯についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は、神秘湯という漢方薬が出ています。このお薬は、酷い喘息や、長く続く咳がある場合によく使われるお薬です。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、咳を鎮めて呼吸を楽にしてくれますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は、神秘湯という漢方薬が出ています。このお薬は、酷い喘息や、長く続く咳がある場合によく使われるお薬です。
変わった名前の薬ですが、神秘的な効果が出るという意味でつけられたようです。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、咳を鎮めて呼吸を楽にして気分も改善してくれますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
偽アルドステロン症
自律神経系(不眠、発汗過多、頻脈、動悸、全身脱力感、精神興奮等)
消化器(食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐等)
泌尿器(排尿障害等)
冷え
添付文書(ツムラ85番)
ツムラ神秘湯(外部リンク)
神秘湯についての漢方医学的説明
生薬構成
麻黄5、杏仁4、厚朴3、陳皮2.5、甘草2、柴胡2、蘇葉1.5
出典
浅田宗伯家方(外台秘要の同名処方に厚朴を加味)
条文(書き下し)
「久咳(きゅうがい:長い間続く咳)、奔喘(ほんぜん:強い喘息発作)して、坐臥(ざが:座ったり寝たり)するを得ず、並びに喉裏呀声(こうりがせい:喉の裏がア”-と鳴る声)気絶するものを療す。」
条文(現代語訳)
「咳が長く続き、強い喘息発作があり、座ったり寝たりするのが困難であり、並びに喉の裏から苦しい声が出て気絶するものを治す。」
解説
今日は、神秘湯についての解説になります。本処方は、現在は喘息の漢方として使われています。
元々、外台秘要(げだいひよう)という処方集に同じ名前で収載されていたものに、厚朴を追加して浅田宗伯先生が作られた処方となります。
神秘湯という珍しい名前は、「症状がこの処方で霊妙なる効果により治る。」という所からつけられているようです。
この様なつけ方は、他のエキス剤では「立効散(りっこうさん:立ちどころに効く薬という意味)」位しか私は知りません。
それでは、最初に条文を見ていきます。条文は、外台秘要からの出典で、要約しますと「気絶する位酷い喘息に使用する処方。」と書かれています。
条文だけですと、詳しい使用目標が解りませんので、構成生薬を見る必要があります。
それでは、次に構成生薬を見ていきます。構成生薬は、グループ分けしますと、
ポイント
解表、発汗:麻黄
理気:厚朴、陳皮、蘇葉
潤肺:杏仁
健胃:厚朴、陳皮
疎肝:柴胡
緩和、諸薬を和す:甘草
の様になっています。
構成生薬から、気の詰まりの原因は表が閉じている事(汗が出ない)の他に、胃の詰まりと肝鬱がある事が解ります。
厚朴と柴胡がどちらも入っておりますので、目つきは鋭く食べ過ぎ傾向で、かなり固い顔つきの方に合う処方です。
胃の張りや喉のイガイガ(梅核気)、胸脇苦満等も出てきますので、それらの所見がある喘息発作には非常によく効く処方だと言えます。
以上を、条文と構成生薬をまとめて考えますと、神秘湯は「酷い喘息発作や長く続く咳で、汗が出ず、目つきが鋭く食べ過ぎ傾向で喉がイガイガして、胃が張って、胸脇苦満のあるもの。」に使用する処方となります。
まとめが大分長くなってしまっていますが、要は「厚朴配合処方と柴胡剤、麻黄剤の特徴が全て含まれる証に対応する処方」という事になります。
これらのどれかがあれば効くという訳ではなく、全ての証が併存している必要があります。
本処方は、裏寒や脾虚がある場合には不適となりますので、注意が必要です。
鑑別
神秘湯と他処方との鑑別ですが、代表的なものに麻杏甘石湯、五虎湯、小青竜湯、苓甘姜味辛夏仁湯、真武湯、人参湯があります。それぞれについて解説していきます。
麻杏甘石湯
神秘湯と麻杏甘石湯は、共に喘息発作に使用される処方であり、鑑別対象となります。
麻杏甘石湯は石膏配合処方であり、胃に熱のある裏熱実の証に使用します。特徴としては、多量の汗があり、その所見の有無がそのまま鑑別ポイントとなります。
石膏は、血液側の浸透圧を上げる事で、細胞から水(汗)を引き(浸透圧は細胞<血液)、熱で乾燥した肺を潤し(浸透圧は肺>血液)、最終的に尿で熱水を排泄します。
神秘湯の場合は、石膏の要る様な多量の汗は無く、代わりに胸脇苦満等の柴胡証の所見や胃の詰まり等の厚朴剤の所見が出てきます。
【漢方:55番】麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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五虎湯
神秘湯と五虎湯は、共に喘息発作に使用される処方であり、鑑別対象となります。五虎湯は、麻杏甘石湯に肺の熱を取る桑白皮(そうはくひ)を加えた処方です。
ですので、鑑別ポイントは麻杏甘石湯と同じで、多量の汗の有無と胃の詰まり、胸脇苦満の有無で判断します。
多量の汗があれば五虎湯、胃の詰まりの所見、柴胡証の所見等があれば神秘湯になります。
小青竜湯
神秘湯と小青竜湯は、共に喘息発作に使用される処方であり、鑑別対象となります。
小青竜湯は、その処方中に麻黄と桂枝を含みますので、気の上行があります。言い換えますと逆上せになります。ですので、頬が桜色になります。
この頬が桜色という所見で、桂枝の有無を判断します。また、小青竜湯には半夏が多量に含まれますので、痰が多く吐き気等も催してきます。
神秘湯は、桂枝と半夏を含みませんので、そこまで痰は出ずに逆上せ症状もありません。また、厚朴証の所見である喉のイガイガと柴胡剤の所見である目つきの鋭さがあります。
この部分で鑑別が可能となります。
【漢方:19番】小青竜湯(しょうせいりゅうとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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苓甘姜味辛夏仁湯
神秘湯と麻杏甘石湯は、共に喘息発作に使用される処方であり、鑑別対象となります。
苓甘姜味辛夏仁湯は、小青竜湯の虚の処方と呼ばれています。
それぞれの構成生薬を見てみますと、
小青竜湯:麻黄、桂枝、甘草、乾姜、五味子、細辛、半夏、芍薬
苓甘姜味辛夏仁湯:茯苓、甘草、乾姜、五味子、細辛、半夏、杏仁
という様に、小青竜湯に入っている麻黄、桂枝、芍薬が抜かれ、その代わりに茯苓と杏仁が入っています。
麻黄、桂枝、芍薬というのは、胃腸に対しては瀉剤として働きますので、それを嫌って抜かれたのだと考えられます。
麻黄・桂枝で発汗させて経を巡らし、水を排泄する代わりに、茯苓と杏仁で水を排泄します。
芍薬は桂枝とのバランスを取る為に配されていましたので、それが抜かれたのでセットで抜かれたのでしょう。
神秘湯との鑑別は、逆上せ所見が無い事以外は小青竜湯と変わりません。
つまり、そこまで痰は出ず、厚朴証の所見である喉のイガイガと柴胡剤の所見である目つきの鋭さの有無で鑑別します。
痰が多く、厚朴証、柴胡証の所見が無ければ苓甘姜味辛夏仁湯、その反対なら神秘湯になります。
真武湯
真武湯は虚寒性の喘息に使用する場合があり、神秘湯と鑑別対象となります。
共に食欲が有る場合に使用する漢方ですが、真武湯はとにかく身体を温める温裏の処方になります。
神秘湯は胃の詰まりや気の詰まり、肝鬱をさばく処方になりますので、喘息症状以外の所見に目を向ければ鑑別が可能です。
神秘湯と麻杏甘石湯は、共に喘息発作に使用される処方であり、鑑別対象となります。
続きを見る【漢方:30番】真武湯(しんぶとう)の効果や副作用の解りやすい説明
お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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