ポイント
この記事では、四物湯についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方.com」のムセキです。
本記事は、四物湯についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は、四物湯という漢方薬が出ています。このお薬は、肌荒れや生理不順等の婦人病によく使われるお薬です。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、血を増やす働きがありますので、お困りの症状に聞いてくると思います。
一度、試してみてください。身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は、四物湯という漢方薬が出ています。このお薬は、血虚と呼ばれる症状、例えば肌荒れ、生理不順、腹痛等の婦人病によく使われるお薬です。
その他にも、四物湯が入っている漢方は沢山あり、あまり聞いたことが無いと思いますが、漢方の中ではなじみ深いお薬です。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、血を増やす働きがありますので、お困りの症状に聞いてくると思います。
一度、試してみてください。身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
消化器(食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢等)
冷え
添付文書(ツムラ71番)
ツムラ四物湯(外部リンク)
四物湯についての漢方医学的説明
生薬構成
当帰3、芍薬3、川芎3、地黄3
出典
和剤局方
条文(書き下し)
「栄衛を調益(ちょうえき)し,気血を滋養す。衝任虚損(しょうにんきょそん),月水不調、臍腹キュウ痛(さいふくきゅうつう),崩中漏下(ほうちゅうろうげ),血瘕塊硬(けっかかいこう),発歇疼痛(はっかとうつう),妊娠して宿冷,將理(しょうり)宜しきを失し,胎動安からず,血下りて止らず,及び,産後虚に乗じ,風寒内に搏(う)ち,悪露下らず,結して瘕聚(かしゅう)を生じ,小腹堅痛(しょうふくけんつう)し,時に寒熱を作(さく)すを治す。」
条文(現代語訳)
「栄気と衛気を調節して益し,気血を滋養します。衝脈(しょうみゃく)と任脈(にんみゃく)が虚損し,月経が不調で、臍(へそ)の周りが痛み,不正出血があり,その中に血の塊があり,痛みの程度が重くなったり軽くなったりし,また、妊娠してからずっと冷え,身体の機能不全を起こし,胎動が不安定で,下血して止まらず,及び,産後の虚に乗じて,風寒の邪が身体の内部で暴れ,悪露(おろ)が下らず,固まっておりものを生じ,下腹部が堅くなって痛み,時に冷えたり熱くなったりするものを治します。」
解説
今回は四物湯の解説になります。四物湯は単体で用いられる事は少なく、大体が加味方としての使用となります。
別名「血虚の聖剤」と呼ばれ、補血作用に優れた処方となります。
まずは条文を見ていきます。条文は和剤局方よりの出典で、かなり長く書かれています。
冒頭の「栄衛を調益(ちょうえき)し,気血を滋養す。」というのは気虚を補うという訳ではなく、「補血により栄衛のバランスを整えて、結果として気血を滋養する。」という考え方になります。
それは、衝任虚損(しょうにんきょそん)という一文で解るのですが、この衝任というのは経絡の衝脈と任脈の事で、主に気血水の血に関係の深い場所となります。
その部分が虚の状態になっているという意味で、それに付随する様々な症状がその直後から書かれています(月経異常や不正出血、妊娠の異常状態、産後の不調等)。
ですので、条文の部分を要約しますと、「補血による気血の調整をする処方で、血虚による血の道証、産前産後の不調等に用いる。」と言えます。
ポイントは、「気血を滋養す。」で、一見条文が気血両補剤のような書き方になっている所です。ここは間違えやすいので注意が必要となります。
次に、構成生薬を見ていきます。構成生薬と効能は、
血を温め動かす(活血):当帰
肝陰を補い、血の量を増やす:芍薬
血に気を入れ、走らせる:川芎
地黄:血(精)を補う
となります。四物湯は基本処方の一つですので、少し詳しくご紹介していきます。まず当帰ですが、この生薬は血を温めて滞りを改善します。
滞りが改善された結果、その血は中焦上焦へ向かいます。ですので、当帰の効能は、中焦上焦の補血となります。
中焦上焦の補血が要る状態(=血虚)というのは、一番解りやすいのが怪我で、創傷部分の治癒を目的として配合されます。
また、肌の色艶が悪いのも血虚の特徴となりますのでそれも当帰が要る要らないの鑑別になります。また、脾胃の血虚が原因で起こる不眠にも使われます。
この不眠への作用は当帰の中上焦への補血作用が、最終的に心血を補う事になる為です。
血をダイレクトにいじる生薬で、当帰と対極にあるものが牡丹皮になります。牡丹皮は瘀血を除く生薬になりますので、心に対しては瀉剤としての働きになります。
これら2つの生薬の使い分けが血の道証の処方の使い分けになります。
ですので、基本的には婦人病薬は当帰か牡丹皮のうちのどちらかの配合となっています。
ただ、中には例外的に両方入るものもありますので、その辺りはチェックしておくと良いでしょう(温経湯、加味逍遥散等)。
次に芍薬ですが、主な作用は肝陰を補うという効果です。これは、芍薬自体に肝の蔵血能を拡大する、血を蓄える容積を増大させる作用がある事から来ています。
その結果、血の水分(後天の精等を含む営気)の流入が起こり、血が増えます。
これは、見方を変えると脾胃で出来た営気を肝に引っ張る事になります。ですので、脾胃が弱っている場合には脾胃を酷使する事になり、結果その機能を痛めてしまいます。
脾胃剤に芍薬が含まれないのはその為になります。ここから、芍薬が含まれる処方は「食欲がある時(脾胃の力がある程度はある)」という使用条件が導かれます。
話を戻しますと、この肝の蔵血能の増大を利用した処方は各所に見られ、一例を挙げますと、
四物湯:中上焦の血虚改善目的で、血をかさ増しする。
真武湯:「組織→血液→尿」の利水の流れを増やす目的で血を増やす。
芍薬甘草湯:筋血流量を増大し、筋を和らげる事で鎮痙作用が出る。
桂枝湯:気を巡らせる桂枝とのバランスを取り、血を巡らせる為に使用。
といったものがあります。これらの処方は芍薬の使われ方が全く違いますが、全て同じ「肝の蔵血能を増大させる」という作用から来ています。
次に川芎ですが、この生薬は血を動きをつける生薬になります。「血中の気剤」という別名がある通り、血に気を入れて走らせ、全身を巡らせます。
当帰と効果の方向性が同じですので、当帰・川芎の組み合わせはよく見られます。川芎は、「血を走らせる」という作用から、肝にとっては若干「瀉」に働きます。
最後に地黄です。地黄は陰中の陰剤で、腎精を補います。血の元は腎精になりますので、そのものズバリを補う事になります。
地黄は、他生薬との組み合わせで効果が変化します。
当帰・芍薬・川芎と組み合わせて、本処方の四物湯にしますと中から上焦の血を補う作用となり、地黄・桂枝の組み合わせは表を補う作用を持続させます。
逆に地黄単味の場合、下焦を中心に骨や髄を補う処方となります。生薬それぞれの働きは以上の様になります。
また、四物湯全体の構成を考えますと、地黄と他の生薬との組み合わせにより、血を上焦まで昇らせる事が目的になっている事が解ります。
ですので、下焦を中心に腎精を補う作用は軽微だと言えます。
また、上焦への補血は心血を補うという作用になりますので、逆に言いますと血虚の所見としては「抑鬱傾向」というのが現れてきます。
また、他の血虚所見として「皮膚の色艶が悪い」「腹痛」「月経不順」「不正出血」「婦人の不定愁訴」等が出てきます。
以上より、条文と併せて考えて、四物湯は「抑鬱傾向のある血虚による血の道証、肌の色艶が悪い、産前産後の不調等に用い、気血を滋養しそれらの症状を改善する処方。」と言えます。
本処方は、その構成生薬中に裏寒や脾虚の生薬が入っておりませんので、それらの所見がある場合は不適となります。
また、かなり体つきはガッチリしていて、逆上せ等はありません。
鑑別
四物湯と他処方との鑑別ですが、代表的なものに八味地黄丸、芎帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)、十全大補湯、温清飲(うんせいいん)、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)があります。
同じ地黄剤であったり、加減方が多い為、ここで取り上げる処方以外にも鑑別処方は非常に多くあります。
それぞれについて解説していきます。
八味地黄丸
八味地黄丸と四物湯は、同じ地黄剤であり、鑑別対象となります。
よく、一緒に「地黄剤」と一括りにされますが、地黄以外は構成生薬は全く違っていますので、どちらの処方を使うかというのは非常に重要となってきます。
八味地黄丸の場合、その構成生薬中に腎精を血に変えて運用する生薬が全くはいっておりませんので、地黄の効果は「腎精を補う」というものになります。
また、牡丹皮も配合されておりますので、瘀血を除く効果もあります。牡丹皮は余分な血を除く生薬ですので、心に対しても瀉剤として働きます。
これは、四物湯の当帰とは対極の作用となります。ですので、八味地黄丸証は精神的に陽気で朗らか、逆に四物湯は抑鬱傾向になります。
また、八味地黄丸には桂枝が入り、逆に四物湯には入りませんので、八味地黄丸逆上せによる赤ら顔があって四物湯にはありません。
同じ様ながっちりとした脾虚が無い方でも、それぞれに特徴的な所見がありますので、それを押さえておくと鑑別しやすいと言えます。
【漢方:7番】八味地黄丸(はちみじおうがん)の効果や副作用の解りやすい説明
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芎帰膠艾湯
芎帰膠艾湯と四物湯は、その処方が似ており鑑別対象となります。
芎帰膠艾湯の中に四物湯が丸々入っておりますので、一見四物湯が基本処方と思われますが、実は逆で、芎帰膠艾湯の方が出典が先になります。
ですので、芎帰膠艾湯から艾葉(がいよう:ヨモギの葉)と甘草、阿膠(あきょう:ニカワ)を抜いたものになります。
芎帰膠艾湯、四物湯共に血虚による不正出血に使用しますが、どちらかと言いますと芎帰膠艾湯の方が不正出血の度合いが強いです。
また、心熱の存在が芎帰膠艾湯にはありますので、顔の中心が赤い等の所見があります。
その他は、ほぼ同じですので、どちらか迷った場合は感覚で「こちらの方が良い!」と出しても良いでしょう。それ位、似た処方になります。
十全大補湯
十全大補湯は四物湯に四君子湯を足したものに、黄耆と桂枝を加えたものになります。身体の全てを補うという意味の処方です。
脾胃剤が入った四物湯ですので、元気な人がちょっと無理して疲れた、程度のものによく効きます。
四物湯の方は脾胃の虚が無く、十全大補湯にはありますので、「食欲はあるけど疲れが出ている」という方に向いています。
また、桂枝が入っていますので、逆上せ症状があり、頬に赤みがさします。四物湯証の方にはその辺りはありませんので、そこで鑑別が可能となります。
【漢方:48番】十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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温清飲
四物湯に黄連解毒湯を加えた処方は、温清飲と呼ばれます。この温清飲も、婦人の血の道証の処方となります。
温清飲が合う病態というのは、四物湯証に身体全身の熱状が加わったものになります。
ですので、腹痛や不正出血、月経異常等の血虚所見に顔全体が赤い、体中に熱感がある等の所見が出てきます。
四物湯証には熱感や顔全体が赤い等の熱所見がありませんので、そこで鑑別が可能となります。
【漢方:57番】温清飲(うんせいいん)の効果や副作用の解りやすい説明
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当帰芍薬散
当帰芍薬散は、四物湯の地黄を抜いた部分の構成が丸々入っており、使用目標も血の道証ですので似通っています。
明確な鑑別としては、当帰芍薬散は利水の効がありますが、四物湯にはありません。
身体全体的に浮腫みがあるようでしたら当帰芍薬散で、血虚により皮膚の色艶が悪いようでしたら四物湯で良いでしょう。
この2つは、どちらも脾胃に対する補剤が入っておりませんので、胃腸の調子は問題ありません。
【漢方:23番】当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)の効果や副作用の解りやすい説明
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