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解表剤・理気剤・袪風薬の特徴
また、厚朴剤、桂枝湯類に関しては、別記事にて解説を加えますので省かせて頂きます。但し、麻黄剤はこちらで解説を行います。
気に対する方剤でありますので、上焦(心・肺)、皮膚等に対して効果を出すものが主になります。
解表剤は発汗剤、理気剤は裏を保全しながら気を回します、袪風薬は風邪を除く作用があると言われていますが、基本的に全て気剤であり、気を巡らし、余分な気は発散させて去るという事が基本となります。
気が留滞すると、その部分より手前には実が生じ、また、先には虚が生じます。
このような場合は、理気剤を使用して留滞を改善させます。邪気が経をとめている場合は、麻黄剤のような解表剤で発汗させて除く必要があります。
表を邪気が侵した場合は、袪風薬で風を除く必要があります。
また、この解説項目の気剤に限らず、幅広い処方に気剤の役割を持つ生薬が配合されており、気剤の基本的な概念を応用する事は必要です。
勿論、気を巡らせて発散させるという効を期待するためには、脾胃の虚や裏寒が無いということが重要です。また、それらが起こらない様に細心の注意を払う必要もあります。
気剤に使われる代表的な生薬は、以下のようなものがあります。
桂皮、桂枝、麻黄、蘇葉、薄荷、羗活、白芷、荊芥、防風、金銀花、忍冬、香附子、陳皮、枳実、厚朴、檳榔子、木香、細辛、辛夷、牛蒡子、菊花、葛根、升麻、蝉退、前胡、他多数
次項より、解表剤・理気剤・袪風薬の代表例を順に取り上げます。
解表剤・理気剤・袪風薬の種類
葛根湯、麻黄湯、麻杏甘石湯、小青竜湯、越婢加朮湯、参蘇飲、香蘇散、麻杏薏甘湯、大防風湯、升麻葛根湯、川きゅう茶調散、麻黄附子細辛湯、十六味流気飲
解表剤・理気剤・袪風薬の処方解説
葛根湯
構成生薬:葛根、大棗、麻黄、甘草、桂皮、芍薬、生姜
葛根・・・胃熱を解き、口渇を止め、酒毒を消し、肌熱を解きて、汗を発する。
大棗・・・脾胃を補う事で肺氣を補い、陰陽を和す
麻黄・・・太陰肺経、足の太陽膀胱経に入り、風寒の邪気が表に閉じて居る患者への発表解表剤として用いられる
甘草・・・脾胃を補い、諸薬を調和し、急迫を緩和する
桂皮・・・表を補い経を巡らす
芍薬・・・肝陰を補い、裏を和らげる。温補し過ぎるのを防ぎ、水を逐う
生姜・・・脾胃を温め、気を発散させる
*桂枝湯に葛根と麻黄が足されています。麻黄は主に太陽膀胱経の寒邪を去り、腠理を開いて汗を出させます。詰まりを強烈に取るので、脾胃のエネルギーを激しく消耗してしまうので、注意を要します。冷え、脾胃に弱りが無く、強烈な肩こり頭痛がある、風邪の初期で発熱しかかっているタイミング(高熱になろうとして上がっている状態)に使用します。長服には向かない処方です。
麻黄湯
構成生薬:麻黄、桂皮、杏仁、甘草
麻黄・・・太陰肺経、足の太陽膀胱経に入り、風寒の邪気が表に閉じて居る患者への発表解表剤として用いられる
杏仁・・・肺を潤し温め、気を下降させ、肺の結気を散らす
桂皮・・・表を補い経を巡らす
甘草・・・脾胃を補い、諸薬を調和し、急迫を緩和する
*表に強力な寒邪が侵入し、経を犯したものを治します。経が止められる為、邪を発散させようと発熱し、肺は結気します。表に気の詰まりが生じますので、肺のすぐ下に骨があり痛みを感じやすい節々に痛みを生じます。頓服で使用するのが望ましい処方です。
麻杏甘石湯
構成生薬:麻黄、杏仁、甘草、石膏
麻黄・・・太陰肺経、足の太陽膀胱経に入り、風寒の邪気が表に閉じて居る患者への発表解表剤として用いられる
杏仁・・・肺を潤し温め、気を下降させ、肺の結気を散らす
甘草・・・脾胃を補い、諸薬を調和し、急迫を緩和する
石膏・・・陽明胃経が通じなくて、上焦の頭部に陽気が欝滞したものを冷まして落とす
*肺に熱水がこもり、気が詰まって喘しているものに使用します。杏仁は痰を利します(結気を除く)がその性甘く、肺を潤す効も持ちます。麻黄は肺の余分な気を下行させる為に配されていると思われます。虚寒性の喘息には禁忌の方剤です。
小青竜湯
構成生薬:半夏、乾姜、甘草、桂皮、五味子、細辛、芍薬、麻黄
半夏・・・脾胃の痰を去り、気を落とす
乾姜・・・脾胃を温める。生姜のように発散の効は少なく、裏を温めるのに適している
甘草・・・脾胃を補い、諸薬を調和し、急迫を緩和する
桂皮・・・表を補い経を巡らす
五味子・・・肺気を收めて守り、養う
細辛・・・頭痛脳動、風寒湿を去り、九竅を利す。気を下し、痰を破り、中焦を暖め、水を去り、汗を出し、血を巡らす。咳嗽を治し、胸中の滞結を開き、百節を通じる。
芍薬・・・肝陰を補い、裏を和らげる。温補し過ぎるのを防ぎ、水を逐う
麻黄・・・太陰肺経、足の太陽膀胱経に入り、風寒の邪気が表に閉じて居る患者への発表解表剤として用いられる
*一般的にはよく喘息の治療薬、花粉症の治療薬としてよく使われます。肺に寒湿の邪が溜まり、気がめぐらないもの。現代人向けは、苓甘姜味辛夏仁湯。
越婢加朮湯
構成生薬:石膏、麻黄、蒼朮、大棗、甘草、生姜
石膏・・・陽明胃経が通じなくて、上焦の頭部に陽気が欝滞したものを冷まして落とす
麻黄・・・太陰肺経、足の太陽膀胱経に入り、風寒の邪気が表に閉じて居る患者への発表解表剤として用いられる
蒼朮・・・脾胃の湿を去る
大棗・・・脾胃を補う事で肺氣を補い、陰陽を和す
甘草・・・脾胃を補い、諸薬を調和し、急迫を緩和する
生姜・・・脾胃を温め、気を発散させる
*胃に湿熱が溜まり、その影響で肺に熱が在り下がらないものに使用します。肌肉と皮膚の間隙の湿熱を去り、経を通して邪気を解表して払います。リウマチ等の関節部の痛みに用いられます。
参蘇飲
構成生薬:半夏、茯苓、葛根、桔梗、前胡、陳皮、大棗、人参、甘草、枳実、蘇葉、生姜
半夏・・・脾胃の痰を去り、気を落とす
茯苓・・・体内の水を巡らせ、利水する
葛根・・・胃熱を解き、口渇を止め、酒毒を消し、肌熱を解きて、汗を発する。
桔梗・・・気を升らせて肺分に至らせ、結果、一切の気を下降させる。諸薬の気を上行させる
前胡・・・風を去り、熱を除く。気を下し、痰を消し、胃を開き、食を通じる
陳皮・・・脾胃の気を動かし、巡らす
大棗・・・脾胃を補う事で肺氣を補い、陰陽を和す
人参・・・脾胃の補気を行う
甘草・・・脾胃を補い、諸薬を調和し、急迫を緩和する
枳実・・・腸胃の気、血、痰、熱、食、水などの一切の積結堅滞を破る
蘇葉・・・胃を開き、気を巡らし、血を巡行させ、裏を保全しながら表に達しさせ発汗させる
生姜・・・脾胃を温め、気を発散させる
*虚証の葛根湯とも言われます。風熱の邪に表が犯され、脾胃が動かず詰まり、気がめぐらないものに使用します。脾胃を保全しながら気を上まで持ち上げ、解表して邪を除きます。風寒の邪ではなく、温邪によるもの。
香蘇散
構成生薬:香附子、蘇葉、陳皮、甘草、生姜
香附子・・・気分の爵を散行する
蘇葉・・・胃を開き、気を巡らし、血を巡行させ、裏を保全しながら表に達しさせ発汗させる陳皮・・・脾胃の気を動かし、巡らす
甘草・・・脾胃を補い、諸薬を調和し、急迫を緩和する
生姜・・・脾胃を温め、気を発散させる
*脾胃を温め、裏の血流を良くして保全しながら気を表に導き解表し、欝気を解散させます。上焦や体表の欝氣を去ります。風邪が経に入る前に処理する事も出来ます。ストレスによる軽度の頭痛や、花粉症にも使用されます(正理湯(116+70)、香砂六君子湯加減(43+70)。
麻杏薏甘湯
構成生薬:薏苡仁、麻黄、杏仁、甘草
薏苡仁・・・脾胃の湿熱を捌き、肌肉の湿の留滞を除く
麻黄・・・太陰肺経、足の太陽膀胱経に入り、風寒の邪気が表に閉じて居る患者への発表解表剤として用いられる
杏仁・・・肺を潤し温め、気を下降させ、肺の結気を散らす
甘草・・・脾胃を補い、諸薬を調和し、急迫を緩和する
*表寒に侵され、胃に湿熱があり、肺に結気して気が巡らないものに使用します。肌肉部の湿熱を取り、関節部の痛みを散じます。
大防風湯
構成生薬:黄耆、地黄、芍薬、蒼朮、当帰、杜仲、防風、川芎、甘草、羗活、牛膝、大棗、人参、乾姜、附子
黄耆・・・脾から気を肺に導き、肺気を高めて表の水を逐い、皮膚粘膜を修復する
地黄・・・血を補い、血熱を冷ます
芍薬・・・肝陰を補い、裏を和らげる。温補し過ぎるのを防ぎ、水を逐う
蒼朮・・・脾胃の湿を去る
当帰・・・血を温め心血を養う
杜仲・・・腎精を補い、肝の燥を潤す
防風・・・上焦の風邪を治す。頭目の中に滞る気を発散し、肺実を瀉し、経絡中の留濕を去る
川芎・・・血を走り散らす
甘草・・・脾胃を補い、諸薬を調和し、急迫を緩和する
羗活・・・風を逐い、湿を除いて太陽膀胱経の滞りを去る
牛膝・・・下枝の寒湿を去り、肝腎の気を補充して筋骨を盛んにして瘀血を去る
大棗・・・脾胃を補う事で肺氣を補い、陰陽を和す
人参・・・脾胃の補気を行う
乾姜・・・心を通し、陽気を助け、中焦下焦を温め、肺気肝血を利し、中焦下焦の寒湿を去る
附子・・・腎を温補し、身体の新陳代謝を高める
*胃腸が比較的弱く、気血両虚と腎虚を兼ねるものに使用します。当帰、川芎で活血させます。慢性関節リウマチや関節痛でも使用します。「うどの大木」のような、くびれの無い体つきの女性にも使います。羗活や防風で、上焦の風を去ります。
升麻葛根湯
構成生薬:葛根、芍薬、升麻、甘草、生姜
葛根・・・胃熱を解き、口渇を止め、酒毒を消し、肌熱を解きて、汗を発する
芍薬・・・肝陰を補い、裏を和らげる。温補し過ぎるのを防ぎ、水を逐う
升麻・・・陽明大腸経を通じ、下焦の気を上昇させ、浮かんで皮膚に達し、頭面の風を去り、熱を除き、毒を逐う
甘草・・・脾胃を補い、諸薬を調和し、急迫を緩和する
生姜・・・脾胃を温め、気を発散させる
*内臓の下がりを治し、汗を発して表の邪を去ります。発表剤としては弱いですが、薬味が少ないので効果が早く、脾胃の弱いものにも使用できるので、子供の発熱等に用いられます。
川きゅう茶調散
構成生薬:香附子、川芎、羗活、荊芥、薄荷、白芷、防風、甘草、茶葉
香附子・・・気分の爵を散行する
川芎・・・血を走り散らす
羗活・・・風を逐い、湿を除いて太陽膀胱経の滞りを去る
荊芥・・・浮いて上り、皮膚、頭面の風熱を去る
薄荷・・・頭目を清くして風熱を除く、汗を発して暴寒を去る
白芷・・・大腸経と肺経に入り、解表、祛風燥湿、消腫排膿し、止痛、頭面の諸疾を治す
防風・・・上焦の風邪を治す。頭目の中に滞る気を発散し、肺実を瀉し、経絡中の留濕を去る
甘草・・・脾胃を補い、諸薬を調和し、急迫を緩和する
茶葉・・・頭目を清くし、気を下し、食を疎し、酒毒を消し、熱痰を除き、煩渇を止め、小便を利す
*茶の入った処方です。ほぼ表の袪風のみを考えて作られており、特に頭痛に一般的に用いられます。身体を冷やし込むので、裏寒、脾虚に気を付ける必要があります。
麻黄附子細辛湯
構成生薬:麻黄、附子、細辛
細辛・・・頭痛脳動、風寒湿を去り、九竅を利す。気を下し、痰を破り、中焦を暖め、水を去り、汗を出し、血を巡らす。咳嗽を治し、胸中の滞結を開き、百節を通じる。
附子・・・腎を温補し、身体の新陳代謝を高める
麻黄・・・太陰肺経、足の太陽膀胱経に入り、風寒の邪気が表に閉じて居る患者への発表解表剤として用いられる
*附子で腎を温め、細辛で上焦まで持ち込み麻黄で発表させ解表します。非常によく効くが、脾胃の虚が存在する場合には使ってはいけません。
十六味流気飲
構成生薬:当帰、川芎、芍薬、桂皮、人参、蘇葉、桔梗、白芷、黄耆、木香、烏薬、厚朴、枳殻、檳榔、防風、甘草
当帰・・・血を温め心血を養う
川芎・・・血を走り散らす
芍薬・・・肝陰を補い、裏を和らげる。温補し過ぎるのを防ぎ、水を逐う
桂皮・・・表を補い経を巡らす
人参・・・脾胃の補気を行う
蘇葉・・・胃を開き、気を巡らし、血を巡行させ、裏を保全しながら表に達しさせ発汗させる
桔梗・・・桔梗・・・気を升らせて肺分に至らせ、結果、一切の気を下降させる。諸薬の気を上行させる
白芷・・・大腸経と肺経に入り、解表、祛風燥湿、消腫排膿し、止痛、頭面の諸疾を治す
黄耆・・・脾から気を肺に導き、肺気を高めて表の水を逐い、皮膚粘膜を修復する
木香・・・三焦に入り、気分の留滞、閉塞、結爵を治し、諸気を昇降する
烏薬・・・瘀血で生じた結爵の気を散ずる。暖めながら気の滞りを治す
厚朴・・・胃の実滞を除去し、胃を賦活して暖め、気を下降させる
枳殻・・・腸胃の気、血、痰、熱、食、水などの一切の積結堅滞を破る
檳榔・・・胸中に存在する至高の気(非常に硬い気)を下す
防風・・・上焦の風邪を治す。頭目の中に滞る気を発散し、肺実を瀉し、経絡中の留濕を去る
甘草・・・脾胃を補い、諸薬を調和し、急迫を緩和する
*上焦に硬い気が存在し、それが原因で腫瘤をなし、精神不安を起こしているものに使用します。乳癌、甲状腺腫、五十肩等に使用されます。
お読み頂きありがとうございます。
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