ポイント
この記事では、六君子湯についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方.com」のムセキです。
本記事は、六君子湯についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は、六君子湯という漢方薬が出ています。一般的にもよく使われていまして、食欲が無い、胃腸の調子が悪い、等の効果があります。
今日はどうされましたか?
〇〇という症状ですね。先生は、恐らく胃腸の調子を戻せば良くなると診断されて、このお薬を出されたのだと思います。
一度、このお薬を試されて様子を見てみて下さい。身体が冷えて来ると効果が悪くなりますので、注意してください。
漢方医処方の場合の説明
今日は、六君子湯という漢方薬が出ています。
一般的にもよく使われていまして、食欲が無い、胃腸の調子が悪い、等の効果があります。
また、胃を動かす薬になりますので、例えば、口臭や口の熱感等、胃の手前にある余分な熱も取る事が出来ます。
今日はどうされましたか?
〇〇という症状ですね。先生は、恐らく胃腸の調子を戻せば良くなると診断されて、このお薬を出されたのだと思います。
一度、このお薬を試されて様子を見てみて下さい。このお薬を効かせるためには、消化の良い食事を少なめに摂る事がコツです。
「食べなきゃ!」と思って食べてしまいますと逆効果になります。また、身体が冷えて来ると効果が悪くなりますので、注意してください。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
偽アルドステロン症
肝機能障害、黄疸(AST、ALT、Al-P、γ-GTP等の著しい上昇)
過敏症、発疹、発赤、そう痒等
悪心、腹部膨満感、下痢等
冷え
添付文書(ツムラ43番)
六君子湯についての漢方医学的説明
生薬構成
人参4、白朮4、茯苓4、半夏4、陳皮2、大棗2、甘草1、生姜0.5
出典
世医得効方(条文は万病回春を使用)
条文(書き下し)
「脾胃虚弱、飲食少しく思い、或は久しく瘧痢(ぎゃくり)を患い、若しくは内熱を覚え、或は飲食化し難く、酸を作し、虚火に属するを治す。 須(すべから)く炮姜(ほうきょう)を加えて其の効甚(はなは)だ速やかなり。」
条文(現代語訳)
「脾胃が虚弱で、食欲は少ししか無く、あるいは久しく酷い病を患い、もしくは身体の内部に熱を覚え、あるいは消化し難く、胃酸が出て、虚火に属するものを治します。 蒸し焼きをした生姜(=乾姜)を加えると、非常に効果が早いです。」
解説
一般的にも、条文から見ても「胃を動かす、食欲を益す薬」になります。しかし、漢方的に見た場合、それに付随する効果も覚えておくと良い処方となります。
先に結論をお話しますと、この処方は脾胃を補い、胃を動かす処方になりますが、胃を動かす事で、その手前である喉や口の余計な熱を下す働きもあります。
また、胃から先、例えば胃腸の動きが悪くなっていて便秘になっている場合、それも改善します。
このような、添付文書には載っていない効果を覚えておくと、いざという時に役に立ちます。
少し話が逸れましたが、まずは条文を見ていきます。
六君子湯の出典は万病回春とされていますが、どうやら世医得効方の方が先のようです。
「四君子湯に陳皮半夏を加えて六君子湯と命名する。」という一文が入ります。条文は万病回春の方が良いので、そちらを見ていきます。
条文の内容をまとめますと、「食欲無し、身体に熱感を覚える、乾姜を加えるとよく効く。」となります。
非常に簡単に書いてありますが、非常に重要な事を示唆されています。
それは2点あり、一つは「脾胃虚弱で邪熱が発生する。」という所でもう一つは「冷えると効果が悪くなる」という部分です。
陰陽五行説で考えると解るのですが、胃を動かすという事は、口から胃腸を経由して肛門に至るまでの動きをつける、という事であり、逆に胃の部分で詰まりがあれば、その手前では気が渋滞して熱になり、またその後では虚状が現れるという事になります(車の渋滞と同じです)。
また、脾胃を動かす事は腎にとっては相克になり、働きが弱まるという事を表します。
具体的には、腎の命門の火と呼ばれる陽気によって胃腸による消化が運用されており、六君子湯は、胃を動かす事で、命門の火を余計に消化するという事になります。
この二点が、条文の「虚火を治す」「乾姜を追加すると早く効く」という所に通じます。
次に、生薬構成を見ていきます。
六君子湯は、基本的に四君子湯+陳皮半夏が加わっており、その創方の流れとしては「四君子湯→異効散(四君子湯+半夏)→六君子湯」となります。
異効散と六君子湯は効能が似ていて、共に脾胃が弱って胃が動いてないものに使用します。
六君子湯には半夏があり、異効散にはありませんので、その生薬の差である「粘性の湿邪」の有無が効果の差にそのまま直結します。
この湿邪があると、吐き気があったり考え方がネガティブになりがちになります(脾胃の神は意、志は思であり、思う、顕在意識等を指し、そこに湿邪が溜まると考え方も陰湿な傾向になる)。
以上、まとめますと、六君子湯は「胃腸を動かして、身体の上半身の余分な虚熱を取る処方で、身体の芯を温めるとよく効く処方。」と言えます。ということは、つまり、裏寒が酷いものには不適という事であり、使用に関してはその辺りに十分注意を払う必要があります(抗がん剤の副作用で食欲不振になっている者に六君子湯という処方は、危険である可能性)。
鑑別
六君子湯との鑑別は、安中散や補中益気湯、四君子湯等が対象になります。それぞれ、見ていきます。
安中散
六君子湯と安中散の鑑別ですが、安中散は桂枝が入る為、顔の頬が逆上せて赤くなっています。
また、安中散の場合は口の周りにできものや酒さがあり、消化力を越えて飲食をした場合や病後回復等に使われます。
六君子湯は、食欲そのものが無く、逆上せは無いのでその辺りで鑑別が可能になります。
同じ胃腸に使われる漢方処方ですが、用途や証によって使い分けがあるのが興味深い所です。
続きを見る【漢方:5番】安中散(あんちゅうさん)の効果や副作用の解りやすい説明
補中益気湯
補中益気湯と六君子湯は、共に四君子湯から始まった処方になりますが、気の流れが丁度反対になります。
補中益気湯は、脾胃虚弱、胃下垂で肺気不足にて心熱が外に気化熱として排出できず溜まってしまうものに使用します。
升麻が入り、気の流れはとにかく肺で溢れさせる事が目的となります。
しかし、六君子湯は、そこまで気が落ち込んでいる訳ではなく、その代わりに胃の動きが非常に良くない場合に使います。
また、柴胡の有無も鑑別ポイントとなり、補中益気湯は虚の方剤ですが柴胡剤になりますので、目つきの鋭い神経質な方が対象となります。
六君子湯はそこまで目つきが鋭いわけではないので、その辺りで鑑別が可能となります。
続きを見る【漢方:41番】補中益気湯(ほちゅうえっきとう)の効果や副作用の解りやすい説明
四君子湯
四君子湯と六君子湯はよく比較され、大体が六君子湯の方が効くという解釈になっています。
しかし、医療用漢方エキス製剤に四君子湯が別に入っているという事実があります。つまり、それぞれ使い分けが必要になるという事に外なりません。
結論を言いますと、四君子湯は六君子湯のより虚の状態で、胃を動かす事すら難しい場合に使います。
六君子湯の注意点は、その作用点である「胃を動かす」という所にあります。
言い換えますと、生薬の力で無理やり動かしているという側面もありあまりにも脾虚が甚だしい場合はそれすらする事ができません。
そのような時の為に四君子湯が存在します。使用場面が無いように見えますが、実は四君子湯は妊婦の栄養不良に非常に効果的です。
六君子湯のように気を下さず、自然に胃を動かすように持っていく事で、母体に対する負担も少なくて済みます。覚えておくと非常に便利な処方だと言えます。
六君子湯との鑑別方法ですが、六君子湯の場合は、口臭や咽喉の乾燥、上半身の熱感を覚える事がありますので、余分な熱が上半身に存在するかどうかで鑑別が可能となります。
それぞれ使い分けをしたい所です。
お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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