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温裏剤の特徴
生命を守るという視点から、裏寒の治療が最優先になります。現代人は冷飲冷食、過食、ストレス、睡眠不足、エアコン等により、身体の中心の内臓が冷えています。
その身体の中心の冷えを裏寒といいます。裏寒は一見ではわからず、自覚が無い為に臨床上では無視される傾向にあります。
しかし、裏寒という状態は身体の相火の本である命門の火が虚している状態であり、身体の代謝機能の低下であるので極めて危険と言えます。
腎は先天の精を蔵していると同時に、相火の本である命門の火を蔵しています。
命門の火は身体を温める本であり、脾胃を温め、消化に使われます。その為、冷飲冷食、過食等により脾胃が冷えると、消化に使われるエネルギーが増大し、裏寒をしやすくなります。
裏寒を回復させるには、食事量を減らし、睡眠を十分取り、ストレスを溜めない生活を心がけることが必要となります。
四逆とは、回逆ともいいます。裏寒や、肝胆の詰まりや機能不全により、身体の中心を救う為に四肢が厥冷している状態です。
四逆散、四逆湯、当帰四逆加呉茱萸生姜湯等、四逆という名前がつく処方は多数存在しますが、病態としては全く違う為、使い分けが必要となります。
病態として違うとは言っても、表面上に現れる症候は同じような感じに見えるので、陰陽の入れ子構造というものがこのような部分にも表れていると言えます。
温裏剤の種類
甘草乾姜湯、四逆湯、四逆加人参湯、茯苓四逆湯、真武湯、真武湯生脈散、附子湯、人参湯、附子理中湯、等
甘草乾姜湯
構成生薬:甘草、乾姜
甘草・・・補脾。また、生体反応を緩め、解毒する
乾姜・・・脾胃を温める。生姜のように発散の効は少なく、裏を温めるのに適している
*裏寒の状態にある者に誤って発汗剤を投与して、さらに陽気虚衰を起こしてしまったものに使用します。例えば、少陰病期の患者に桂枝湯、葛根湯等の太陽病の薬を誤って投薬した場合の回陽救逆の方策として利用されます。応用的には、乳幼児の裏寒の甚だしいものに使用します。
四逆湯
構成生薬:甘草、乾姜、附子
甘草・・・補脾。また、生体反応を緩め、解毒する
乾姜・・・脾胃を温める。生姜のように発散の効は少なく、裏を温めるのに適している。
附子・・・腎陽を補い、命門の火を活性化させる
*甘草乾姜湯に附子を加えた処方です。附子を加える事で、腎陽を引き出し命門の火を補い、救逆を行います。四逆湯の基本処方。甘草乾姜湯より強力に裏を温める効があります。
四逆加人参湯
構成生薬:甘草、乾姜、附子、紅参
甘草・・・補脾。また、生体反応を緩め、解毒する。
乾姜・・・脾胃を温める。生姜のように発散の効は少なく、裏を温めるのに適している。
附子・・・腎陽を補い、命門の火を活性化させる
紅参・・・脾胃の気を補い、五臓の気を補う
*四逆湯に紅参を加えたものです。胃気を補う事で、五臓の補気を行います。紅参は、陽中の陰薬であり、極めて著しい裏寒の場合は、補脾をすると厥してしまう可能性があります。臍下、壇中(だんちゅう)、脾兪(ひゆ)、胃兪(いゆ)の冷えを触知します。
茯苓四逆湯
構成生薬:甘草、乾姜、附子、紅参、茯苓
甘草・・・補脾。また、生体反応を緩め、解毒する。
乾姜・・・脾胃を温める。生姜のように発散の効は少なく、裏を温めるのに適している。
附子・・・腎陽を補い、命門の火を活性化させる
紅参・・・脾胃の気を補い、五臓の気を補う
茯苓・・・水道を利し、水を体外に排出する
*四逆加人参湯に茯苓を加えた処方です。四逆加人参湯に加えて茯苓が入り、利水も行う為、冷えの原因となっている水が除かれて、結果として最終的な温裏作用は強くなります。しかし、利水にも気を使う為、裏寒の程度によっては使用できません。臍下、壇中(だんちゅう)、心兪(しんゆ)、肺兪(はいゆ)の冷えを触知。
真武湯
構成生薬:附子、茯苓、白朮、芍薬、生姜
附子・・・腎陽を補い、命門の火を活性化させる
茯苓・・・水道を利し、水を体外に排出する
白朮・・・脾胃の湿を除き、益気する
芍薬・・・肝陰を補い、水をまとめる作用も持つ
生姜・・・脾胃を温め、水毒を除く。また、肺も温めて宣発粛降作用を賦活化する
*少陰病期の薬方として、重宝されます。腎を温め脾胃から肺を温める効に優れ、脾胃の寒湿を除き尿として排出させます。附子、茯苓、白朮、芍薬、生姜が配されます。四逆湯類と異なる所は、全身の寒湿を除く事に重点が置かれている点です。甘草は、湿を生んで保つ作用がある為、配合されません。他薬と合方する場合は、温陽利水による代謝賦活作用により、もう一方の薬方の効果を増大させて、冷えを防止します。
真武湯生脈散
構成生薬:附子、茯苓、白朮、芍薬、生姜、麦門冬、紅参、五味子
附子・・・腎陽を補い、命門の火を活性化させる
茯苓・・・水道を利し、水を体外に排出する
白朮・・・脾胃の湿を除き、益気する
芍薬・・・肝陰を補い、水をまとめる作用も持つ
生姜・・・脾胃を温め、水毒を除く。また、肺も温めて宣発粛降作用を賦活化する
麦門冬・・・肺を潤わせて燥熱を去る
紅参・・・脾胃の気を補い、五臓の気を補う
五味子・・・肺気を収束させ、失わせないようにする。その結果、腎気を補う事に繋がる
*真武湯に生脈散(麦門冬、紅参、五味子)を合方したもの。生脈散は心肺の熱を收めて気を補う事で、その働きを改善します。真武湯証に上焦の燥熱や心肺の熱が存在する場合に使用する。麦門冬、五味子で肺の調整を行うことで、心熱を去り、紅参で心肺を賦活化します。
附子湯
構成生薬:附子、茯苓、白朮、芍薬、紅参
附子・・・腎陽を補い、命門の火を活性化させる
茯苓・・・水道を利し、水を体外に排出する
白朮・・・脾胃の湿を除き、益気する
芍薬・・・肝陰を補い、水をまとめる作用も持つ
紅参・・・脾胃の気を補い、五臓の気を補う
*真武湯の生姜を紅参に変えたものです。生姜が入っていないため、脾胃や肺での利水が抑えられ、また、紅参の助けも借りて下半身を重点的に温めて下焦の寒湿を去ります。関節、足の冷えやむくみ、痛み(痺)を取り去ります。
人参湯
構成生薬:人参、乾姜、白朮、甘草
人参・・・脾胃の気を補い、五臓の気を補う
乾姜・・・脾胃を温める。生姜のように発散の効は少なく、裏を温めるのに適している。
白朮・・・脾胃の湿を除き、益気する
甘草・・・補脾。また、生体反応を緩め、解毒する。
*脾陽虚を治す代表的な薬方である。脾胃及び心肺が冷え、顔が青白く元気がないものに使用する。甘草乾姜湯に朮と人参が加わって、脾胃の気虚陽虚を補い、心肺の補気を行う。四逆加人参湯との違いは、朮か附子かということであるが、脾胃に湿が存在して気虚が強い場合は人参湯、脾胃の湿より、腎陽虚から来る裏寒が強い場合は四逆加人参湯を用いる。
附子理中湯
構成生薬:人参、乾姜、白朮、甘草、附子
人参・・・脾胃の気を補い、五臓の気を補う
乾姜・・・脾胃を温める。生姜のように発散の効は少なく、裏を温めるのに適している
白朮・・・脾胃の湿を除き、益気する
甘草・・・補脾。また、生体反応を緩め、解毒する
附子・・・腎陽を補い、命門の火を活性化させる
*人参湯に附子が加わった処方です。人参湯証で、裏寒の甚だしい者に使用します。四逆加人参湯に朮が加わったものとも取れます。
お読み頂きありがとうございます。
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