こんにちは。「名古屋漢方」ブログのムセキです。
本記事は、黄柏(オウバク)についての解説記事になります。日本薬局方収載の生薬のうち、日本で使われている漢方処方に配されているものを抜粋しています。
名前(日本名、ラテン名、英名)と写真、基原、製法、成分、性味・帰経、本草書(昔の薬草辞典)の記載、注意、私の考察(私見)、代表処方中の役割をご紹介します。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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生薬名
日本語名
黄柏(オウバク)
ラテン語名
PHELLODENDRI CORTEX
英名
Phellodendron Bark
写真
基原
ミカン科(Rutaceae)のキハダ(Phellodendron amurense Ruprecht)又は Phellodendron chinense Schneider の周皮を除いた樹皮
※日本、朝鮮半島、中国東北部、北東アジアに分布。幹の内皮が黄色なのでキハダと名付けられています。キハダの皮は苦く、胃腸薬とされ百草丸、陀羅尼助など、昔から民間薬として使用されています。
製法
ミカン科(Rutaceae)のキハダ(Phellodendron amurense Ruprecht)又は Phellodendron chinense Schneider の周皮を除いた樹皮を剥ぎ,周皮を除き天日で乾燥する。
成分
アルカロイド(ベルベリン、パルマチン、マグノフロリン、フェロデンドリン等)
性味・帰経
性味
味:苦性:寒
帰経
帰経:腎、膀胱
本草書の記載
腎臓、膀胱の伏火を瀉し、小便の不通を治す。下血、下痢、女子の漏下(ろうか:不正出血)、赤、白帯下(たいげ:おりもの)を治す。眼熱赤痛眼涙を治す。消渇(しょうかち:糖尿病)、口舌瘡、諸々の萎縮を治す。
注意
命門、真元の陽の不足の虚火には用いてはならない。陰虚して命門の邪火実盛のものに用いる。尺脈(脈診の「尺中」という部分の脈)が洪大で、これを按じて、力のあるものには用いてはならない。命門の邪火が実勢であったとしても、胃の気の不足しているものには用いてはならない。老人、小児、産後の婦人には妄りに用いてはいけない。大便瀉痢、小便頻数には用いてはいけない。黄柏は寒剤で、沈降の剤である。故に、冬に過服してはならない。
※尺脈が洪大で使用不可というのは、一見解りにくい表現です。洪大というのは、脈が大きく浮いて打つというものです。ですが、浮いて尚且つ強く推しても打つというのは腎火の「水中の陽」という元々の性質からすると上に出すぎている異常な火です。この異常な火は恐らく「腎陰の虚」から来るものであり、黄柏には腎陰を補う働きはそれほど無い為、知母や地黄などを使用します。また、この腎の異常な火の場合は肺まで焼かれている場合が多い為、麦門冬等の肺陰虚を治療する生薬も同時に使用されます。
考察
百草丸、陀羅尼助等、民間にて胃腸薬として極めてポピュラーに頻用されている薬剤ですが、実は使用方法が非常に難しい生薬です。
まず、考えなければならない事は、この薬剤が陰剤に分類されているということです。陰剤というのは、体の器質を増加させる方向に働く薬剤という意味です。
そして、その時は身体の新陳代謝を落とす事によって、そのエネルギーを身体造成に振り分けます。これは、昼間と夜中の身体の反応からも理解できるところです。
黄柏が百草丸等の民間薬として胃腸障害の薬方としてよく使われますが、どういうわけか、消化器疾患には多々効果を発揮する事が多いから不思議です。
恐らくですが、消化器部位に起きている炎症を食い止めるのに、黄柏が大きな役割をしていると考えられます。
要するに、黄柏が消化器を通過していく時に、局部の炎症をくい止めるのに役立っているという事になります。中黄膏、目薬、湿布剤として利用されているのは、この作用の為になります。
漢方医学的に黄柏の作用は、腎膀胱の伏火を瀉す事です。また、黄柏は身体の活動を沈降させる陰剤です。
下焦の水分の中にある龍火をさます作用も有しており、この作用は、黄柏の大きな特徴を作り上げています。
腎火の処置は、陰陽両面が存在します。苦寒をもって処置するときは、火気は下焦に存在し、腎陽は衰えません。これには知母や黄柏などの苦寒の剤で対応します。
逆に虚火等で辛温をもって治療するものは、同じように火邪が下焦にあったとしても、水の中の陽根が微弱です。その場合は、乾姜や附子等をもって治療します。
この判別は中々難しく、寒の見極め方を熟知することが必須となります。
また、黄蘗は膀胱にはいるといっても、小便を通じさせる薬ではないにも関わらず、結果的に小便を通じさせます。
火邪が膀胱の血分に伏している場合、膀胱はこのために通じることが出来ず、そこに黄柏を用いることで、排尿を促すことが出来ます。慢性腎炎などに応用できるのこの作用からになります。
そして、陰部炎症等がある場合に黄柏が多用される理由でもあります。
腎熱が原因で下焦の湿熱を起こし、下血するものにも黄柏が適剤となります。感染症などによる、血の混じる下痢も同様です。
女性の不正出血も、腎熱によって下焦に熱を帯びるものがあり、これらが原因となるおりもの、下血に応用できます。
黄柏は腎から肺へと上がる龍火と呼ばれる火邪を清すということは、それらの通り道である肝・脾胃等の実熱をも瀉すということであり、目の炎症等にも応用されることがあります。
条文にある「消渇」についてですが、その原因の中に腎火によるものがあります。
腎火によるものは黄柏を用います。胃の火であるといっても腎火を原因としているものに黄柏を用いることが出来ます。ちなみに、消渇という病態は、発生が中年期以降であるため、基本的に腎熱があるとみるのが普通です。
黄疸についても黄柏が用いられることがあります。湿熱は、中焦の湿が原因となって起きるものです。それが下降して熱と結びつき、湿熱となっています。
使用上の注意点ですが、基本的に脾胃の弱いもの、虚寒のあるものには注意が必要です。理由としては、そのまま黄柏が苦寒の剤であるからになります。腎陽まで瀉してしまう危険があるためです。
代表処方
黄連解毒湯
黄連解毒湯は、黄連・黄柏・黄芩・山梔子からなる、酒毒に対する処方です。今でも、二日酔い対策のドリンクで使われています。
この中での黄柏の働きは、上記の通り肝腎を含む下焦の実熱を清す目的になります。しかし、使われ方を見ますと、民間薬のような局部炎症を止めるという効も期待されているものと考えられます。
黄連解毒湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:15番】黄連解毒湯(おうれんげどくとう)の効果や副作用の解りやすい説明
続きを見る
梔子柏皮湯
梔子柏皮湯は、山梔子・黄柏・甘草の3味からなる処方です。黄柏の清し方は、腎から出る熱を団扇で仰ぐように外から冷やしていきます。
ですので、龍火を直接清すことが出来ます。梔子柏皮湯での黄柏の使われ方は、このようなものになります。
ですが、黄連解毒湯と処方が似ておりますので、梔子柏皮湯が無い場合は黄連解毒湯でも代用できるものと思われます。
梔子柏皮湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:314番】梔子柏皮湯(ししはくひとう)の効果や副作用の解りやすい説明
続きを見る
清暑益気湯
清暑益気湯中の黄柏は、その条文を見ると解ります。夏バテにて胃腸がつかれている場合で、熱がこもっているものが適応になりますが、黄柏は、その中で湿熱処理として用いられています。
湿熱というものは、湿気と邪熱が合わさって発生します。丁度、夏が過ぎた初秋(お盆過ぎ)の処方ですので、夏の暑さと水気で発生した湿熱の処理を行っているものと考えられます。
清暑益気湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:136番】清暑益気湯(せいしょえっきとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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最後に
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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