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虚実寒熱錯雑状態の治療について

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虚実寒熱錯雑状態の治療について

虚実寒熱錯雑状態の治療について

ブログ「名古屋漢方」管理人の、ムセキ(@nagoyakampo)です。

本業は薬剤師で、漢方医学を専門にしています。

今日は、虚実寒熱錯雑状態(きょじつかんねつさくざつじょうたい)の治療について、詳しくご紹介します。

「確かにスパッと効く症例って少ないですね。虚実寒熱が混じっていて、どこから手を付けて良いか解らないです。」

って思っていらっしゃる方、お見えだと思います。

正直な所、実臨床で出会う症例は、9割5分この状態です。それで証の決定を間違ってしまって治療に失敗するパターンが後を絶ちません。

その辺りの加減は、実際に目の前でお伝えするのが一番ですが、そうもいかないのでブログ記事でポイントをお伝えする事にしました。

今回の記事では、虚実寒熱錯雑状態の例を出しながら、処方の注意点、使い方等を詳しくご紹介していきます。

本記事は、以下の構成になっています。

虚実寒熱錯雑状態とは何か

虚実寒熱錯雑状態の治療ポイント

虚実寒熱錯雑状態の注意点

虚実寒熱錯雑状態の治療例

さいごに

殆ど全ての症例と言って良い位、虚実寒熱錯雑状態は多いです。色々と候補がある中で、どれを選んで治療するかという所が腕の良し悪しでもあります。

そのポイントを知って処方運用が出来ると、安全性を増して治療効果を上げる事が出来ます。

それでは、宜しくお願い致します。

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虚実寒熱錯雑状態とは何か

ムセキ
虚実寒熱錯雑状態とは、一言で言うと身体に虚も実もどちらも存在する事を指します。

患者さんを目の前にして、お話を聞いて証の決定をする。一見簡単に見えますが、そう簡単に行かないのが漢方医学です。

漢方薬の効能書きや書籍に「〇〇、□□等に効果がある」となっているけれど、使ってみると上手くいかない。

理論を勉強して「この症状や訴えは〇が駄目だからか!つまりあの処方が合う!」と理詰めでやっても、上手くいかない。

漢方を使われた事のある方は、このようなご経験があるのではないでしょうか。

その理由は「人間の身体というのは、虚状と邪実が同居してゴチャゴチャの状態になっているから。」です。これを、「虚実肝熱錯雑状態」といいます。

虚状のみ、邪実のみがある、またはそれに近い状態というのは本当に稀で、殆どの場合は「身体の虚もあるし実もある」という虚実寒熱錯雑状態となっています。

この状態が見えていない事で、治療を失敗してしまうケースが後を絶ちません。

例えば、「今、身体の中に瘀血が溜まっているから、駆瘀血したい」となった時、同時に身体が冷えていたり、脾胃(胃腸)の弱り等が存在し、程度によってはすぐに駆瘀血出来ないということにもなります。

この時、瘀血だけしか頭に無いと、桂枝茯苓丸や大黄牡丹皮湯をはじめとする駆瘀血剤を使いがちです。

ですが、錯雑状態を知っていれば、「この方は冷えているから、温めてて体調が整ってから駆瘀血した方が良いね。今回は真武湯にしよう。」等の様に状態に合わせて処方を変える事が出来る様になります。

言い方を変えますと、処方に幅が出るようになります。そして、その様に「処方の使用条件が解る」ようになると、漢方治療での失敗が格段に減ります。腕がよくなる訳ですね。

漢方治療で大事なのは、処方を多く知っているという事でも書籍を沢山読んで勉強しているという事でもなく、患者さんの身体にあった処方を出せるかどうか、の一点になります。

その為の条件が、身体は基本的に虚実寒熱の錯雑状態であるという事を理解する事になります。

次に、虚実寒熱錯雑状態のポイントについてお話していきます。

虚実寒熱錯雑状態の治療ポイント

ムセキ
全部一気に行おうとするのではなく、優先順位をつけて行う事が大事です。

虚実寒熱錯雑状態は、身体に気血の虚と病邪の実どちらも存在する状態です。

虚を補おうとすると病邪は去らず、病邪の実を去ろうとすると、今度は虚状を悪化させてしまう事になります。一見、どちらの治療もしにくい様に見えます。

ですが、よく見ると治療の糸口が見える事があります。

私の経験では、治療の糸口は以下のポイントから見つかる場合が多いです。

①基本は虚の治療を優先する

②治療を急ぐものがあるか

③証にピッタリ合えば鋭い効き目

④生薬単位で考える

これらを念頭に置いておくと、虚実が入り混じっていても迷う事が少なくなります。そしてそれは、安全性向上にもつながります。

それでは、一つずつ説明していきます。

①基本は虚の治療を優先する

虚実が入り混じっている状態だと、どれを優先すべきか解らない事が多いのですが、基本的には裏寒や脾虚等の虚状を無くすというのが優先になります。

結局の所、瀉して邪気を取り去る場合には正気が必要となります。その気が不足すればするほど、邪気を取り除きにくくなります。

また、虚状がなくなると邪気が鮮明になってくる事も多く、その時に瀉しても遅くは無いというのが理由になります。

逆に急ぎすぎると、邪気は身体に残ってしまい虚状も悪化してしまうという状態にもなりかねません。

その様な理由で、基本的には虚状を無くすという補法を基本的には優先した方が安全です。

②治療を急ぐものがある

基本的には補法を優先しますが、例外で邪気をすぐに瀉す必要のある場合があります。

身体への侵襲スピードが速かったり、邪気の強さが大きかったりと、放置すると不味い結果になることが目に見えている時は瀉剤を用いて一旦邪気を除きます。

ポイントは、邪気がはっきりと解るという事です。瘀血がある、胃熱がある、肝熱がある、湿熱がある等、確実にすぐに瀉すべき邪気がはっきりと見える時に使用します。

この場合においても、正気が虚さないか確認してから使用します。

また、邪気が除けたら、すぐに補法に切り替えて身体の虚状を回復させます。

③証にピッタリ合えば鋭い効き目

漢方医学の言葉で、「鍵と鍵穴」というものがあります。これは、証が決まれば処方が決まるという事です。

裏寒や脾虚等の虚状が無い事を確認し、それに加えて他の所見を見て証決定し体調に合う処方を選ぶと、よく効くようになります。

特に、ピッタリと漢方がハマった場合、薬を口に含んだ瞬間から身体が楽になる事を経験します。

よく「漢方だから長く飲まないと効かない」とか言いますが、あれは真っ赤なウソです。短ければ口に含んだ瞬間、どんなに長くても二週間の間には漢方の効果は得られます。

それで「効いた感じがしない」「薬が余っている」という言葉が出る様なら、証決定を間違えている可能性も否定できません。

そこで意固地になるのではなく、もう一度声なき身体の声に耳を傾ける必要があるのではないでしょうか。

その様な特性を知っていれば、たとえ失敗したとしてもすぐに挽回できる可能性が高くなります。

とにかく、漢方は合うと物凄い効き目を発揮します。これは覚えておいて下さい。

④生薬単位で考える

これはとても大事で、身体を診た時、病態に対する生薬が要るか要らないかで考えます。

例えば、「皮膚の乾燥」の場合、乾燥だけなら麦門冬が必要になります。ですが、落屑や組織修復の悪さを考えた場合は血虚を疑います。

当帰や芍薬が配された処方ですね。

その他、咳の有無等から麦門冬、当帰、芍薬などの生薬のうち、どれが必要なのかを考えます。

そうしてどの生薬が必要かがわかれば、そこから処方を導きやすくなります。

虚実寒熱錯雑状態の注意点

ムセキ
よっぽど急ぐ必要があるというのを除けば、虚状の回復に重点を置いた方が安全です。

上の見出しでお話した事と被りますが、虚実寒熱錯雑状態の治療は虚状の回復をメインとし、安全性を考えながら証決定をしていきます。

虚状は、気虚、血虚、陰虚、腎虚等色々ありますが、特に気をつけなければいけない虚は裏寒と脾虚です。

これらが存在している場合、邪気を除く瀉法を行っても邪気が除けないばかりか、より虚状を悪化させてしまう危険性があります。

ですので、最低でも気血両虚位までは回復させてあげたい所です。

それでは裏寒と脾虚について、お話します。

裏寒

裏寒は、身体の中心部分が冷えてしまっている状態で、プレショック状態とも言えます。

昔は重篤な状態と認識されていましたが、最近は冷蔵庫や冷房等で身体が冷えやすい状態になっていますのでありふれた病態になってきています。

何となく体がだるい、手首足首、臍の下、胸の中心が冷えている、目に力が無い等、知らず知らずのうちに裏寒に陥っている方が増えています。

ですので、証決定の最初は、裏寒のチェックになります。

脾虚(気虚)

脾虚は、身体に取り入れた食物を消化して全身に送る気血を作りだす力が弱った状態です。

脾という臓器は現代医学でいう脾臓とは意味合いが違い、消化機能全般を指します。

その場所については諸説ありはっきりしませんが、古人は「脾胃」というようにユニットで考えていました。要は脾胃で一つのものとして扱えば良いという事になります。

脾虚の所見としては、脾のグループである肌肉(きにく)の薄さが際立ちます。ですので、手や腕の肉付きを見ると一目瞭然です。

そこでほっそりしていたり、骨と皮みたいになっていたりすると、脾虚を疑います。また普段より食が細い、太れない、覇気がない、声が小さい等も脾虚の所見となります。

ちなみに、気血両虚の場合は脾虚はありますが、食事は摂れていて肉付きもそこそこ良いですので、そこで鑑別できます。、

脾虚を治療すると、次のステージが気血両虚か裏虚になります。食欲があるけど疲れているという状態ですね。

その様な状態になるまでは、緊急時を除いて瀉剤を使わない方が安全です。

虚実寒熱錯雑状態の治療例

ムセキ
実例を出して、解説していきます。

虚実寒熱錯雑状態の治療は、実際に誰か熟練の漢方治療家の方に見て頂きながら習得するのが一番ですが、中々そういう機会も無いと思います。

ですので、私の経験を元にした創作例を出していきます。どの例も、脾虚や裏寒等の虚状の確認や対処を行っており、そこから治療方針が分かれていく事が解ります。

簡単に言いますと、証決定の際に「ちょっと待てよ?」が大切という事です。

皆さんの参考になれば幸いです。

治療例は、以下のものになります。

隠れた裏寒

気血両補剤が合わなかった貧血

産後の後陣痛

ビジネスマンの不眠や疲れ

アトピー患者の痒み

アトピー患者の痒みと蓄膿症

小児夜尿症

センノシド錠での下痢

それぞれお話していきます。

隠れた裏寒

40代の男性。がっしりとした体格で、聞けばかなりの社会的地位でいらっしゃいます。

身体のだるさで相談。顔の頬が赤い。目に力が無い、身体の中心線にそって青白い、青黒い等の冷えの所見があります。食欲もあり。不眠気味とのこと。

一見、実証の様に見えますが、目に力が無い、身体の中心部を中心に冷えている等、裏寒を思わせる所見が散見されています。

セオリーだと十全大補湯の様な気血両補剤が思い浮かぶ所ですが、裏寒の懸念があった為真武湯を投与。

数日後、身体が楽になったと報告がありました。

解説

真武湯は少陰病の代表的な処方です。身体の中心が冷えている時、非常に使いやすい処方です。

使用条件ですが、処方中に脾気を削る芍薬を含み、補脾の人参は含まれません。つまり、この処方は食欲が残っていないと使用出来ない処方と言えます。

裏寒は、急ぎ邪気を瀉さないといけないものを除いて最優先に対処すべき病態です。色々な病態が身体にあっても、それは変わりません。

気血両補剤が合わなかった貧血

40代の自営業の女性。食が細く非常に痩せていて、病院にて貧血を指摘されています。鉄剤投与中ですが、なかなか改善せず。便秘。

また、現在人参、地黄や当帰が配合されたシロップ剤を購入して服用しています。

手は骨と皮の様な感じで、肌肉がほぼありません。好きな事を仕事にしている為か、イライラ等のストレスは無いようです。

貧血とのことで血虚が出ていますが、下支えする脾が非常に虚していると考えられました。

本当は気血両補剤を使いたい所でしたが、脾胃が虚しすぎていて使えないと判断。補脾薬の四君子湯をお渡ししました。

一週間ほど飲んで頂いた所でお電話があり、病院にはまだ行っていないが身体が楽になり、便通もつくようになったとのことでした。

解説

この症例は、結果を急ぎ過ぎて気血両補剤を投与しましたが、逆に効かなかった例です。

貧血の治療に気血両補剤は比較的よく使われますが、一歩引いた処方を使うという手もあります。また、余計なものを抜くという考え方も、とても大事です。

産後の後陣痛

出産直後の40代の女性。「気血両補剤が合わなかった貧血」の方です。

出産された当日に、お見舞いで伺った所、後陣痛が辛いとのこと。

本来ならば、駆瘀血剤の芎帰調血飲をお出し元々、虚状の強い方なので、駆瘀血剤はまず使用出来ません。色々と悩んで苓姜朮甘湯をお渡ししました。

次の日、電話があり「頂いた処方を飲んだらすっごく効いた!ホント全然違います!」との喜びの声を聞けました。

解説

苓姜朮甘湯と芎帰調血飲は、どちらも子宮のある腰部を中心に効いてくる処方です。

しかし、効き方は正反対で、芎帰調血飲が身体のエネルギーを使用して瘀血をさばくのに対して、苓姜朮甘湯は腰部の冷えを改善する事で、気血の流れを復活させます。

効き方からすると、表裏が逆の処方と言えます。

特殊な処方を除き、漢方処方には表裏の処方、虚実の処方等が存在します。自分なりにその処方をまとめておくと良いでしょう。

ビジネスマンの不眠や疲れ

30代男性。数店舗を統括するマネージャー職。痩せ型で顔がうっすら赤く逆上せています。不眠や気疲れで相談された。

疲れに良いかと思い、補中益気湯を飲むと下痢をしてしまったとのこと。「何か良い漢方薬が無いでしょうか?」と。

食欲はまだあるが、どちらかというと少食。

気血両虚証で気疲れがあるので人参養栄湯証と判断。お勧めしました。

後日、飲んだら眠れるようになったとのお話がありました。

解説

補中益気湯は、中焦である脾胃を補い、その気を上焦である心肺に上げる処方です。

言い換えると、中下焦の気を上まで引っ張り上げる処方ですので、通常は便秘傾向になります。

しかし、中下焦の気が虚しすぎている場合、中気下陥(ちゅうきげかん)という胃腸の気が無くなり内臓下垂や下痢を引き起こす事もあります。

補中益気湯には桂枝が入らず、人参養栄湯には入ります。この方は顔がうっすら赤く逆上せているので、桂枝が要るというのは顔を見れば解ります。

補中益気湯は元々選ぶという選択肢が無い処方ですが、合わない処方を飲んだらどうなるか、という事の勉強にもなりますね。

また、人参養栄湯には地黄が含まれます。補中益気湯で下痢をしているのに地黄が合うのか?という懸念はありましたが、思い切って飲んで貰いました。

結果が良かったので、ホッとしました。

アトピー患者の痒み

40代男性。幼少の頃からアトピーで悩んでいる方です。漢方治療開始後初めての春、尋常ではない痒みが出現。

中肉中背、食欲あり、身体の冷えはあまりありません。

全身の痒みが主訴ですが、特に下腹部の痒みが酷く、炎症になっています。仕事にて、上司からのパワハラがあり、ストレスが非常に溜まっています。

右下腹部に圧痛あり。口内の苦みあり。目つきが鋭い。

裏寒、脾虚の程度は軽く、瀉剤の適応になると考えられ、肝気過多&湿熱ありにて竜胆瀉肝湯証と判断。飲んで頂きました。

一週間後、ご連絡あり。「竜胆瀉肝湯を飲むと痒みが治まるのですが、薬が切れると痒みが出てくる。」とのことです。

服用続けながら、ウォーキング等で体重を落とし、生活改善をする様に指導しました。

解説

結局のところ、竜胆瀉肝湯で症状が取れるという事は、心の奥底に溜まっているドロドロとした怒りが存在する事を意味します。

それと食事等で摂取した甘味や油気が原因の湿邪が結びつき、湿熱の邪気となっています。

ドロドロとした湿熱の場合、漢方薬で一気に綺麗さっぱり無くなるという事は無く、ジリジリと治していくしか手がありません。

出来るだけ患者さんの金銭的時間的なコストを下げながら、時にはステロイドや抗アレルギー剤等も使って完治まで根気よく続けて頂く事が大切になります。

アトピー患者の痒みと蓄膿症

一つ上の例と同じ方の数年後の例です。いつもは竜胆瀉肝湯で治まっていた痒みが治まらなくなってきたと相談。

一週間前(3月中旬ごろ)に風邪をひいて、その後蓄膿になってしまったとのお話でした。

痒みも酷いし、何か良い薬は無いかとのことでした。

中肉中背、食欲あり、身体の冷えはあまりありません。

蓄膿という身体の上焦の病変があるので、竜胆瀉肝湯と同じ一貫堂医学の解毒証体質の薬である荊芥連翹湯をお出ししました。

飲んで頂いた所、立ちどころに鼻の通りが楽になり、痒みも激減したとのことです。暫く続けて頂くようお話しました。

解説

荊芥連翹湯は、竜胆瀉肝湯より身体の上部に集中的に効いてくる処方で、解毒証体質の方の鼻づまり等に使います。

解毒証体質の方は、元々肝熱+血虚で肌が浅黒く荒れていており、皮膚炎症や痒みを頻発します。一石二鳥にならないか、と思い飲んで頂きました。

小児夜尿症

5歳の男児。アトピーあり。母親は離婚してシングル。夜尿症でお悩みがあり、相談。

独りでの子育てだからか、男児に対して厳しく接しているそうです。男児は痩せていて、顔色も悪い。いつもクマのぬいぐるみを持っています。

裏寒、ストレス負けと考えられた為、甘麦大棗湯をお出しし、足首を足湯やレッグウォーマー等で温めるよう指示しました。

また、男児は花が好きで、いつも花屋の店頭で鉢植え等を見ているとのことです。ですので、「家で花を育ててみては?」とアドバイスしました。

一か月後、症状がかなり改善したというお話を伺いました。親子二人で、花を育てているとのこと。

夜尿症も回数が激減し、持っている人形も戦隊ヒーローのものになりました。

解説

ストレスが身体にかかった際、身体の反応は2種類に分かれます。虚と実ですね。

身体に抵抗力があり、ストレス邪気に立ち向かう元気が残っている場合は「怒り」に、逆に無い場合は「悲しみ」になります。

甘麦大棗湯は、全ての生薬が補剤であるにもかかわらず、処方意図は邪気の排出になりますので瀉剤となります。適応は、体内でストレスが変化した「悲しみや不安」です。

しかも、甘麦大棗湯証の場合、その邪気が体内(特に心肺)で暴れてヒステリーを起こす場合もあります。

この場合、証を間違えて怒りと捉え、抑肝散等を使用してしまう方が多い印象です。ちなみに、身体の抵抗力が残っていて「怒り」となる場合は抑肝散等を使用します。

また、抑肝散と甘麦大棗湯両方の証が出る場合もあります。この症例の場合は抑肝散は使用せず、甘麦大棗湯でした。

甘麦大棗湯証の場合、楽しい事や興味のある事等を行うと良い場合が多いです。ですので、薬を飲んで貰う際にこの症例の様なアドバイスをすると良いでしょう。

センノシド錠での下痢

70代男性。ゴールデンウイーク中に相談に見えました。

「少し前からセンノシド錠を服用中。下痢をして腸粘液が出てくる様だ。病院が休みで受診出来ない。何とかならないか。」というご相談です。

痩せ型ですが、はきはきと喋られる方。食欲はあるとのことです。

「今対応出来るとなると乳酸菌製剤と補中益気湯ですが、どちらが良いでしょうか?」とお聴きした所、「即効性がある方が良い。」とのこと。

「漢方の方が良いですよ。でも、あまり長く飲まない様にしてくださいね。」とお伝えし、購入して頂きました。

後日、伝え聞いた話ですが、「あれから症状がピタッと無くなった。病院の先生に言って出してもらう様にした。」とのことでした。

解説

この例は、あまり良い例ではないのですが解説します。

この時、私が本当に出したかった人参湯や附子理中湯等がありませんでした。

そこで、この方に残っている元気を使用して、下痢を止めるという手段に出ました。補中益気湯は、益気というだけあって、気を上に上げて益します。

ですので、下痢をしている場合はそれが緩和する方向に働きます。

しかし、「元気が残っているなら」という条件がある通り、最初の内は効果が出ますがだんだんと効果が無くなって来るはずです。

ですので、あまり長く飲まない様にお話しましたが、残念ながらそれは守って頂けませんでした。

最後の、「病院の先生に言って出してもらう事にした」とお聴きした所でガックリきましたが、私の手を離れた後ですのでどうしようも出来なかった症例です。

さいごに

ムセキ
最後までお読み頂きありがとうございます。

虚実寒熱錯雑状態というと、特殊な状態と思われるかもしれません。しかし、実際は殆どが虚実寒熱錯雑状態となっています。

ですので、理論や処方、口訣に振り回される事なく、自分で考えて目の前の病態に対処する必要があります。

とにかく、少しでも変だと思ったら、「ちょっと待てよ?」という様に思えるかどうかです。

虚実どちらの視点からも病態を観察できると、安全性が非常に高まります。是非、マスターしてくださいね。

本記事が、皆様の漢方学習の助けになる事が出来たら幸いです。

臨床寄りの漢方資料

ムセキ
臨床よりの漢方資料は本当に少ない印象です。

実践向きの良い本を私も探しているのですが、特に初心者向けとなると中々ありません。中には「初心者向け」を謳っている本もあるのですが、私はちょっとお勧めできません。

現代語で総合的かつ実践向きのとなると、高いですけど「漢方診療三十年」「臨床応用 漢方処方解説」位でしょうか。この2冊は、臨床をする上で道しるべになってくれる本です。

後は、手前味噌ですが、私のnoteがお役に立てるのではないかなと思います。それぞれ「心構え」と「ドラッグストアでの漢方の選び方」についての内容です。

調剤に従事される薬剤師の方でしたら、私の編集した「漢方服薬指導ハンドブック」や本ブログに服薬指導用のデータベースもありますので、そちらもご活用頂くという手もあります。

「説明しか出来ない」と思われるかもしれませんが、条文や生薬の薬効をじっくりと押さえながら読み込む事で、また趣深い勉強が出来ます。

【サンプル有】漢方服薬指導ハンドブックのご紹介
「漢方薬の効果や副作用の解りやすい説明」データベース

また、漢方の勉強の仕方は、下記の記事にて詳しくご紹介しています。本記事と併せてお読み頂けると幸いです。

漢方の勉強方法
漢方の勉強方法について

以下より他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。

参考記事
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それではまた!ムセキ(@nagoyakampo)でした。

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