ポイント
この記事では、麦門冬湯についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方.com」のムセキです。
本記事は、麦門冬湯の解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料としてご活用頂ければ幸いです。
スポンサーリンク
<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今回のお薬は麦門冬湯と言います。一般的に咳によく出る処方になります。
(胃腸)風邪の咳ですね。漢方なので、ゆっくりと効いてくると思います。
食事を減らすとよく効いてきます。消化の良いものを少し食べて、後はゆっくりと休んで頂けると治りが良いです(この説明ですと、証を間違えていても治りを早めます)。
身体がだるい、発疹等の症状があればご一報頂ければと思います。
漢方医処方の場合の説明
今回のお薬は麦門冬湯と言います。一般的に咳によく出る処方になります。
麦門冬湯は、漢方では食欲が普段から無い方の、乾燥による咳や喉や口の炎症に使いますので、お困りの〇〇にも効いてくると思います。
もし咳があれば、そちらにも効いてくると思います。
食事を減らすとよく効いてきます。消化の良いものを少し食べて、後はゆっくりと休んで頂けると治りやすくなりますよ
身体がだるい、発疹等の症状があればご一報頂ければと思います。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
肝機能障害、黄疸(AST、ALT、Al-P、γ-GTP等の著しい上昇)
偽アルドステロン症
冷え
添付文書(ツムラ29番)
麦門冬湯についての漢方医学的説明
生薬構成
麦門冬10、半夏5、粳米5、大棗3、人参2、甘草2
出典
金匱要略
条文(書き下し)
「大逆上気、咽喉不利、逆を止め気を下すもの、麦門冬湯之を主る。」
条文(現代語訳)
「気が逆上して、喉がつかえるものには、気逆を止めて下す麦門冬湯で治ります。」
解説
一般的にも、病院等で咳によく使われる処方です。そして、「効かない。」との患者さんの意見も多い処方になります。
咳の種類には幾つかあり、やたらめったら使っても効果がありません。その辺りは、また後述するとして、先に、どのような場合に使うかを書いて行きます。
先に条文を見ていきます。「大逆上気、咽喉不利」とありますが、果たしてこれは「咳なのか?」という疑問があります。
「大逆上気」というのは、そのままの意味を取ると、気が逆上しているという意味です。
また、「咽喉不利」というのは「小便不利」と同じ様な意味で取ると、「喉が通らない」という意味になります。
その後の文章は、「逆を止め気を下すもの、麦門冬湯之を主る。」になりますので、前の文章にある「大逆上気」の病態を麦門冬湯は治します、という意味となります。
次に、生薬構成を見ていきます。
主剤は麦門冬で、肺陰を補います。単に、呼吸器としての肺だけではなく、皮膚や粘膜の乾燥がある所にも効果が出ています。
また、半夏も大量に配されていますので、単に気を下げるだけではなく、痰と言いますか湿邪を取る効も存在するという事になります。
言い換えますと、「水を飲んでも、それが余計に胃に負担になる。」という事になります。
他にも、人参・甘草で胃腸を補い気力をつけ、大棗で上逆した気を分散させます(この大棗の使い方は甘麦大棗湯と同じ)。
粳米については直接気を補う働きがありますが、膠飴ではなく粳米を使っている所にポイントがあります。
膠飴というのは成分が麦芽糖で、粳米はデンプンです。
つまり、膠飴の方が早くエネルギーに変わり、気を上げる作用が強いという事になります(デンプン→麦芽糖→ブドウ糖の順で変化します)。
一見膠飴の方が良いように思いますが、麦門冬湯は気が上逆していますので、あまり早く気が上がり過ぎると不都合があります。
その辺りを考慮に入れて粳米を配しているものと思われます。条文と合わせて考えてみますと、次のような使用目標が浮かんできます。
「呼吸器、気道、喉、や唇などの粘膜や皮膚が渇いて、痩せ型で食欲が無く水もあまり飲まない者で、咳払いや咳をよくする者。」
こういう方はあまり見えないように思われますが、「慢性的に粘膜や皮膚が乾燥している方で、食欲が無く痩せている方」というのは実はよく見かけます。
一言で言いますと「痩せた老人」です。麦門冬湯は、「空気が乾燥している時に咳がよく出る、痩せた老人」の方に使う処方と言えます。
それ以外の原因で出ている咳には無効ですので、使用目標をはっきりとさせておく事が重要な処方と言えます。
その他の原因で出ている咳については、鑑別の所で対応する処方をご紹介します。
鑑別
麦門冬湯が処方されても、中々効果が実感しにくい原因を解説で使用目標と共に書きました。
鑑別では、同じ咳に使われる漢方のうち、現代人向けの香砂六君子湯加減(六君子湯+香蘇散)と正理湯(茯苓飲合半夏厚朴湯+香蘇散)が鑑別処方となります。
全てでは無いですが、基本的にはこの3つのうちのどれかで何とかなる事が多いように思います。
香砂六君子湯加減(六君子湯+香蘇散)
香砂六君子湯加減は、普段から食欲が無い方の胃腸風邪に使いやすい漢方となります。
胃腸が弱くて気が下がりませんので、逆に熱が上部に溜まって咳や口喉の乾燥になっている場合に使います。
胃腸症状と咳の両方か、もしくはそのどちらかがある場合に考慮に入れます。
麦門冬湯も胃腸の弱い方向きですが、こちらは使用条件に口腔、咽喉の乾燥がありますので、その辺りで鑑別が可能です。
正理湯(茯苓飲合半夏厚朴湯+香蘇散)
正理湯は、平素から食欲過多(おやつ好き、ついつい食べ過ぎてしまう等)傾向の方が胃腸風邪をひいた場合に使いやすい処方となっております。
知らずに胃が詰まって咳が出ているパターンです。
胃腸症状と咳の両方か、もしくはそのどちらかがある場合に考慮に入れます。
麦門冬湯は元々食が細く、また、口腔や咽喉の乾燥に代表される肺陰虚が適応となりますので、その辺りで鑑別します。
お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
「漢方薬の効果や副作用の解りやすい説明」データベース
続きを見る
目次
続きを見る