こんにちは。「名古屋漢方」ブログのムセキです。
本記事は、遠志(オンジ)についての解説記事になります。日本薬局方収載の生薬のうち、日本で使われている漢方処方に配されているものを抜粋しています。
名前(日本名、ラテン名、英名)と写真、基原、製法、成分、性味・帰経、本草書(昔の薬草辞典)の記載、注意、私の考察(私見)、代表処方中の役割をご紹介します。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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生薬名
日本語名
遠志(オンジ)
ラテン語名
POLYGALAE RADIX
英名
Polygala Root
写真
基原
ヒメハギ科 (Polygalaceae )イトヒメハギ Polygala tenuifolia Willdenowの根又は根皮
※根の木質部を取り去った根皮を「遠志肉」または「遠志筒」と言い、質が良いとされます。中国の黄土地帯などにみられる多年生の小草で、根は比較的大きく地下深く伸びます。通常叢生(そうせい:歯並びが悪い様)し、つぎつぎに小花を開きます。「初心を呼び起こし、志を遠くまで届かせる。」といわれる薬草で、激しい労働によるふさぎこみ、意気消沈したときにこの薬を配合した処方が用いられます。
製法
ヒメハギ科 (Polygalaceae )のイトヒメハギ(Polygala tenuifolia Willdenow)の根を堀出し,水洗後陽乾し,木部を抜き去って皮部のみとする。
成分
サポニン類(テヌイフォリン、オンジサポニンA ~ G)、キサントン誘導体, 糖類等
性味・帰経
性味
味:苦
性:温
帰経
帰経:腎
※足の小陰腎経の気薬。足の裏、勇泉から頭脳に至るまでの腎経の経絡を運行する。
本草書の記載
志を強くさせる。精を固くさせる。心気を定め、健忘症を治す。陽事萎え衰え、精が漏れるものを治す。耳目を聡明にする。
注意
心腎の実火、実逆の者には不適。気が狂う時がある。
考察
遠志という生薬は、その名の通り、腎に蔵される「志」を遠く心まで届かせる働きがあります。腎の水中の気を強めて、これを上に持ち上げます。
また、下焦の気を固く安定させ、心腎の気を交通させ、健忘、驚悸を治療する要剤です。
心は、血を蔵し、その血中に神気を送り込む臓で、また、腎は精気を蔵し、精中に志気を満たす臓です。
身体の気の流れの根本は、心腎の神志が交わって運行することであり、それが陰陽が和し、精血が安定することに繋がっています。
このことは、精神の調和にも影響します。
志はいわば、戦略であり目標となります。また、神はそのものが動く源となります。つまり、志ばかりあってもそれは動かず役に立たず、また、神気ばかりあっても目標が定まらず役に立ちません。
精中の志が心に送り込まれ、神気を得て、勇気と決断力を生み出します。そしてそれが、正しい道に自分自身を導くことになります。
遠志は足の小陰腎経の気薬であり、腎中の志気を高め心臓に送り込む作用を持ちます。地黄のような腎陰を補う補陰剤ではありません。単に、腎経の気を補うという能になります。
つまり、言い方を変えれば陰中の気を補うということです。腎中の気が虚してしまえば精は固まらず、この様なときに、遠志によって腎中の志気を強くしてやれば、精は自然と固まります。
腎中の志気が心に到達しないと、心気は浮き上がってしまい、情緒不安定となります。心と腎は互いに交通しあってこそであり、腎志は心気の舵取りの役割を担います。
健忘という現象は、心から出る神と腎から出る志、それぞれに深い関わりがあります。神気、志気のみの異常では健忘症は起きず、神志の両方の気の異常でそれが起こります。
神志互いに通じて、忘れる事はありません。しかしながら、神と志の交通を復活させるには脾胃を補うか腎の志気を心まで到達させることが重要であり、結果として遠志が使用されます。
腎中の気虚の場合、遠志はこれを治します。桂皮と組んで、腎気を運用します。また、腎精の不足も補います。腎精の漏れ出るものは竜骨や牡蛎を使用しますが、不足している場合は遠志が適応となります。
腎気不足で耳の聞こえが悪くなること、目が見えにくくなることがあります(老化)。
遠志は、腎志を強くして心に達しさせる作用を有していますので、腎志が強くなって上達すれば、精気は目と耳にも到達し、不足を補います。
遠志は、無闇に驚くものを治します。腎志が不足して上達できないと、心が動揺して驚きやすくなります。
睡眠中に、傍らの人の息に犯されて驚き起きるという症状がありますが、これも腎志の不足によって心気が定まらないために起きるもので、遠志が使用対象となります。
遠志の使用注意点です。遠志は腎志の気を補い、心に達させる働きがある補剤となります。その為、心腎の実熱実火がある場合、それが炎上してしまう可能性がありますので使用不適となります。
そういう意味で、丁度黄連や黄柏とは正反対の性質がある生薬と言えます。
代表処方
人参養栄湯
人参養栄湯は、気血両補+心気虚の場合に使用されます。遠志が心を補う主剤として配され、この生薬の有無が十全大補湯との鑑別点の一つとなっています。
人参養栄湯については、以下の記事をご覧ください。
【漢方:108番】人参養栄湯(にんじんようえいとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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帰脾湯
帰脾湯は、人参養栄湯より若干虚状が強く、食欲がない方向けの健忘症や不眠、精神不安等に用いる処方です。遠志もそれに配されており、心腎交通の主薬としての能があります。
加味帰脾湯については、帰脾湯の加減方のため、割愛します。
帰脾湯については、以下の記事をご覧ください。
【漢方:65番】帰脾湯(きひとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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加味帰脾湯については、以下の記事をご覧ください。
【漢方:137番】加味帰脾湯(かみきひとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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最後に
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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