ポイント
この記事では、桃核承気湯についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方.com」のムセキです。
本記事は、桃核承気湯についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
スポンサーリンク
<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は、桃核承気湯という漢方が出ています。このお薬は、昔からストレスや不安があったり、血の巡りが悪い場合に使われています。
今日は、どのような症状でかかられましたか?
〇〇ですね。先生は、このお薬が合うと判断されたようです。便通を良くして、身体の毒を取るお薬ですので、一度お試し下さい。
この漢方は、身体が冷えてきたり、食欲が無くなってくると効き目が悪くなりますので、体調管理に気をつけて下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は、桃核承気湯という漢方が出ています。このお薬は、昔からストレスや不安があったり、血の巡りが悪い場合に使われています。
今日は、どのような症状でかかられましたか?
〇〇ですね。先生は、このお薬が合うと判断されたようです。少腹急結という、臍(へそ)の左斜め下のしこりがある場合に使うとされている漢方薬です。
診察された時に、それを見つけられたのかもしれません。便通を良くして、身体の毒を取るお薬ですので、一度お試し下さい。
この漢方は、身体が冷えてきたり、食欲が無くなってくると効き目が悪くなりますので、体調管理に気をつけて下さい。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
偽アルドステロン症
過敏症(発疹、発赤、そう痒等)
消化器(食欲不振、胃部不快感、腹痛、下痢等)
冷え
添付文書(ツムラ61番)
桃核承気湯についての漢方医学的説明
生薬構成
桃仁5、桂枝4、大黄3、甘草1.5、芒硝0.9
出典
傷寒論
条文(書き下し)
「太陽病、解せず、熱膀胱に結ぼれ、その人狂の如く、血自づから下る。 下る者は愈(い)ゆ。その外解せざる者は、尚未だ攻む可(べ)からず。まさに先づ 外を解すべし。外解し終わって、少腹急結(しょうふくきゅうけつ)する者は、すなわち之を攻む可 し。桃核承気湯に宜し。」
条文(現代語訳)
「解表せず、熱が太陽膀胱経に詰まり、その人は狂ったようになり、下血する。自然と下血するものは治る。下血せずに解表もしない者は、先に下さずにまず解表するべきである。解表して、少腹急結(臍の左斜め下のしこり)が残るものは、これを下せば良い。桃核承気湯で宜しい。」
解説
今回は桃核承気湯の処方解説になります。この処方は、現代的にも精神的に異常がある方によく使われる漢方となります。
まず、条文を見ていきます。条文は、現代語訳の通りですが、ポイントがありますので、それをご紹介します。
最初に「解表」の意味ですが、桃核承気湯にも桂枝が含まれています。ですので、ここでの意味は麻黄を使用した解表という事になります。
つまり、太陽膀胱経の風池(ふうち)というツボから下、首筋部のコリがあり、その部分で太陽膀胱経が止められているという状態になります。
ですので、条文の前半は、その状態で精神症状があって、自然と便と共に下血するものは治るという意味になります。
ここでの膀胱は太陽膀胱経になりますので、尿の症状ではないという所に注意が必要です。
尿は太陽膀胱経が通っていないと出ませんので、解表するという事は、尿が出るという現象を起こします。
条文の後半部分ですが、解表も下血もしない場合、先に解表をして、その後に桃核承気湯を与えるように、という意味の文章になります。
これは、先に桃核承気湯で下してしまうと、壊病となる可能性があると言えます。傷寒論や金匱要略の条文は、所々言葉を補いながら読んでいく必要があります。
言い換えますと、先に解表をしておいて太陽膀胱経を通しておくと、桃核承気湯の桂枝が効いてくるという事になります。
瀉剤で下すという効果の他、この桂枝で気を下げる事で、精神症状が和らぎます。
次に、生薬構成を見ていきます。生薬は、桃仁・桂枝・大黄・甘草・芒硝の5種類になります。
これらをグループ分けしますと、以下の様になります。
駆瘀血 桃仁、大黄、芒硝
気を巡らせる 桂枝
諸薬の調和、気を上げる 甘草
桃仁は、とにかく瘀血を破るという一点集中の生薬になります。また、大黄は駆瘀血して下す効果、芒硝は下す事で実熱を瀉す効果があります。
とにかく、これら3つの生薬は「駆瘀血して便を下す。」という構成になります。
桂枝も結局は全身の気の巡りを良くしますので、消化管の動きも良くなり、便を出す方向に働きます。
ですので、桃核承気湯を使用するポイントは「瘀血所見(舌下静脈の怒張、唇の瘀血色等)があり、首筋のコリが無く、頬が桜色等の表証が残り、便秘があり、少腹急結(臍の左斜め下のしこり)があり、精神的に狂状のあるもの。」となります。
本処方は、温裏や捕脾の生薬が入っていない為、裏寒・脾虚には用いる事が出来ません。
また、首筋のコリや頭痛が酷い等の解表の所見がある場合は、先に麻黄剤を用いてそれらを改善してから使用します。
鑑別
桃核承気湯と他処方との鑑別ですが、代表的なものに大黄牡丹皮湯、大黄甘草湯、潤腸湯、麻子仁丸、通導散があります。これらについて、それぞれ鑑別を説明していきます。
大黄牡丹皮湯
大黄牡丹皮湯と桃核承気湯は、その構成生薬が半分位同じものになります。両方、瘀血という悪い血を除く薬になりますが、大黄牡丹皮湯には桂枝が入っておりません。
ですので、表証の頬の桜色、気の上行と言った所見は大黄牡丹皮湯には見られません。
桃核承気湯の狂状を取るという効果は、駆瘀血をして便通を付けて気を下げるというものの他に、桂枝による気を巡らせる効果も加味されます。
使用目的の違いと合わせて、その部分が鑑別ポイントとなります。
【漢方:33番】大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう)の効果や副作用の解りやすい説明
続きを見る
調胃承気湯(大黄甘草湯)
調胃承気湯と大黄甘草湯は、芒硝の有無だけになりますので、桃核承気湯との鑑別は同じ方法で可能です。
桃核承気湯は、その構成生薬中に桃仁を含む為、瘀血の存在があります。ですので、瘀血所見が桃核承気湯には存在します。
また、桂枝も含まれますので、表証が残存しています。この2点が、調胃承気湯(大黄甘草湯)にはありませんので、その点で鑑別が可能となります。
潤腸湯(麻子仁丸)
潤腸湯と麻子仁丸は、共に同様に便を柔らかくして出す処方となります。
便がカチカチに乾いて出ないという場合に使われますので、大腸も乾いているという事になります。
便を出すだけなら桃核承気湯でも出ますが、潤腸湯証や麻子仁丸証に桃核承気湯を使うと、上焦の気が虚してしまい、健忘症やボーッとする等の症状が出てくるものと考えられます。
鑑別のポイントは、桃核承気湯には桂枝が入りますので、表証があるという所、また、桃仁が配されておりますので、瘀血所見があるという部分で鑑別が可能となります。
また、患者さんに便の状態を聞いて、カチカチコロコロなら潤腸湯や麻子仁丸等を用いる、という事でも良いでしょう。
【漢方:51番】潤腸湯(じゅんちょうとう)の効果や副作用の解りやすい説明
続きを見る
通導散
通導散は、簡単に言いますと「駆瘀血+胃の詰まりの解消」という効果があります。
その構成生薬中に紅花(こうか)や蘇木(そぼく)を含み、全身に散らばった瘀血を除きます。交通外傷やむち打ち、クラッシュシンドローム等の打撲症に使われます。
使用目的での鑑別でも良いのですが、通導散の所見に「食べ過ぎ」があります。
狂ったように食べる、火との言う事を聞かない、顔つきが固い、よく喋る、等の症状があれば通導散の適応となる場合が多いです。
桃核承気湯は、桂枝を含みますので、どちらかというと頬の赤みや汗が出っぱなし、素直な印象等の所見が多いので、その辺りで鑑別します。
お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
「漢方薬の効果や副作用の解りやすい説明」データベース
続きを見る
目次
続きを見る