ポイント
この記事では、薏苡仁湯についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方.com」のムセキです。
本記事は、薏苡仁湯についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は薏苡仁湯という漢方が出ています。これは、昔から関節リウマチの薬として使われてきました。
今日は、どのような症状でかかられましたか?
〇〇という症状ですね。先生は、お困りの症状にこの漢方が合うと思われて出されたのでしょう。一度、飲んでみて下さい。
このお薬は、身体が冷えたり食欲が無くなったりすると効果が悪くなりますので、体調管理に気をつけて下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は薏苡仁湯という漢方が出ています。これは、昔から関節リウマチの薬として使われてきました。応用として、リウマチ性の色々な疾患、膠原病等に使う場合もあります。
今日は、どのような症状でかかられましたか?
〇〇という症状ですね。先生は、お困りの症状にこの漢方が合うと思われて出されたのでしょう。一度、飲んでみて下さい。
このお薬は、身体が冷えたり食欲が無くなったりすると効果が悪くなりますので、体調管理に気をつけて下さい。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
偽アルドステロン症
発疹、発赤、そう痒等
不眠、発汗過多、頻脈、動悸、全身脱力感、精神興奮等
食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、腹痛、下痢等
排尿障害等
冷え
添付文書(ツムラ52番)
薏苡仁湯についての漢方医学的説明
生薬構成
薏苡仁8、蒼朮4、当帰4、麻黄4、桂枝3、芍薬3、甘草2
出典
明医指掌(めいいししょう)
条文(書き下し)
「手足の流注(るちゅう)、疼痛、麻痺、不仁(ふじん)、もって屈伸しがたきを治す。」
条文(現代語訳)
「手足の気血の流れに問題のあるもので、疼痛や麻痺、力が入らない、そのような症状があり屈伸し辛いものを治します。」
解説
今回は、薏苡仁湯(よくいにんとう)についての解説になります。本処方は、昔から、関節リウマチの亜急性、慢性のものに使用されてきました。
あまり当帰と麻黄を同時に含むものは漢方処方には見られず、珍しい部類に入ります。
まず、条文を見ていきます。薏苡仁湯の条文は、後世方には珍しく非常に短い文章となっています。
簡単に、「手足の痛み、麻痺、力が入らない等の症状があり屈伸し辛いもの」という目標が書かれているだけです。
条文の中で、「流注」という言葉があります。
これは一般的に経絡の流れの事を指しますが、ここでは証決定の目標になりますので、「気血の流れに問題がある」と拡大解釈して意訳しています。
次に、構成生薬を見ていきます。本処方の構成生薬のうち、一番量が多いのが処方名にもなっている薏苡仁になります。
これは、皮膚の下、肌肉部に湿熱の邪が溜まっているものを除きます。
ポイントは湿邪ではなく、湿「熱」の邪であるという部分で、肌肉部を始めとして、皮膚から骨までの炎症の原因となります(脾胃は五臓全てを栄養しますので、この部分の邪は五臓に影響します)。
蒼朮も、水を肌肉部から去り、最終的に尿として出すのを助けます。
麻黄と桂枝は解表して気を全身に巡らす事で動きをつけ、麻痺を取り、痛みを和らげるのと同時に、皮下の湿邪を汗として排出します。
当帰と芍薬は、炎症で消耗した血を補い、炎症部の治癒を促進します。
さて、ここまでで条文と構成生薬について、個々に説明してきました。しかし、この薏苡仁湯の効果説明としては不十分です(関節リウマチに効く理由も不明なまま)。
ですので、条文と構成生薬を照らし合わせながら、もう少し深く見ていきます。
実は、薏苡仁湯の解説は五臓を中心に考えると説明がつかなくなります。どうやって説明するかと言いますと、起点を気血水にする事でそれが可能となります。
気血水を起点に本処方の証をまとめますと、「湿熱による炎症と寒邪による表の運行不全(逆上せ、頬が赤い、無汗)があり、亜急性・慢性に経過している為に血虚も併発したもの。」となります。
湿熱での炎症が何処に出るかは人それぞれ違う為、条文において「疼痛、麻痺、不仁」となっています。
湿熱というのは「炎症性の邪を含む湿気」になり、狂った免疫機能を有する体液そのものになります。
ですので、リウマチの原因も湿熱であるという事が言えます。
リウマチは滑膜、軟骨部位に起こる関節リウマチだけではなく、リウマチ性筋痛症その他全身疾患になりますので、それらに薏苡仁湯が適応となります(リウマチ性の筋炎等では痛み、力が入らない、動かしにくい等の症状が出る事もあります)。
また、リウマチだけでなく、膠原病等にも薏苡仁湯は適応する可能性があります。薏苡仁湯は補血や解表の効がありますので、裏寒脾虚のある場合は注意が必要です。
鑑別
薏苡仁湯と鑑別が必要になる処方で、代表的なものは越婢加朮湯、桂枝加朮附湯、大防風湯になります。それぞれ、鑑別方法を説明していきます。
越婢加朮湯
越婢加朮湯と薏苡仁湯との鑑別ですが、越婢加朮湯は痛み等の症状が激烈で、発汗過多、顔全体が赤い若しくは黄色、皮膚は熱い、浮腫等が目標になります。
薏苡仁湯は、亜急性、慢性期の処方で、逆上せ、血虚、無汗がポイントになりますので、その辺りで鑑別が可能となります。両処方共、裏寒・脾虚には不適となります。
続きを見る【漢方:28番】越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)の効果や副作用の解りやすい説明
桂枝加朮附湯
桂枝加朮附湯と薏苡仁湯との鑑別ですが、桂枝加朮附湯は発汗、逆上せがあり、皮膚が冷たく、浮腫があり、痛みが持続しているという特徴があります。
薏苡仁湯は湿熱の邪がありますので炎症所見が顕著で、血虚により皮膚の色艶が悪く、無汗ですので、この辺りで鑑別します。
続きを見る【漢方:18番】桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)の効果や副作用の解りやすい説明
大防風湯
大防風湯と薏苡仁湯との鑑別ですが、大防風湯は気血両補剤の一種であり、胃腸の状態がそこまで良くありません。
また、発汗しており逆上せが無いのが特徴になります。
腎虚もありますので、腰から下がほっそりとしています。薏苡仁湯の丁度裏処方になりますので、セットで覚えておくと良いでしょう。
お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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