ーこんにちは。「名古屋漢方」ブログのムセキです。
本記事は、茴香(ウイキョウ)についての解説記事になります。日本薬局方収載の生薬のうち、日本で使われている漢方処方に配されているものを抜粋しています。
名前(日本名、ラテン名、英名)と写真、基原、製法、成分、性味・帰経、本草書(昔の薬草辞典)の記載、注意、私の考察(私見)、代表処方中の役割をご紹介します。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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生薬名
日本語名
茴香(ウイキョウ)
ラテン語名
FOENICULI FRUCTUS
英名
Fennel
写真
基原
セリ科(Umbelliferae)のウイキョウ(Foeniculum vulgar Miller)の果実
製法
セリ科(Umbelliferae)のウイキョウ(Foeniculum vulgar Miller)の果実を採取し、採取した果実を天日乾燥するか風通しの良い日陰で速やかに乾燥し製する。
成分
精油成分フェニルプロパノイドとしてアネトール、エストラゴール、モノテルペンとしてリモネン、ピネン等。
※C10位までの分子は、精油の働きをすることが多い印象です。本生薬も、例に漏れず精油として検出されます。
性味・帰経
性味
味:辛
性:温
※辛という味は発散する効を示唆しています。ですので、本生薬は温性で発散若しくは上行する働きがあるということが類推されます。
帰経
帰経:腎、膀胱、脾、胃
※帰経が腎と脾のどちらのグループにも属していますが、主に脾胃を温めて動かす生薬となります。理由は下の「考察」をお読みください。ちなみに、膀胱も帰経となっていますが、腎間の動気が増えると腎の腑である膀胱も益されるため、そのような表記になっているものと考えられます。
本草書の記載
膀胱、腎間の冷気を主り、および腸気を育(やしな:養)い、中を調(ととの)え、痛、嘔吐を止む。
注意
裏寒、腎熱、胃熱には用いない(私案)。
考察
茴香(ウイキョウ)は、別名フェンネルとも呼ばれ、東洋西洋どちらでも胃を動かし食欲を益す香辛料として古来から有名です。
主に肉料理の臭み消しや、食後の口臭予防として使用されています。
茴香は、漢方医学的には腎、膀胱、胃に入り、その冷気を逐います。その性味は辛温で、発散の能を持ちます。少し詳しくご紹介します。
帰経が腎・膀胱となっていますが、茴香の効き方は「腎の相火を引っ張り出す」という効き方であると考えられます。
これは、桂枝や桂皮と同じで腎の相火を胃腸他、全身で使用するということになります。茴香が桂枝や桂皮と違うのは、その能の発揮は胃腸止まりであるという所です。
少し補足説明を行います。
条文の「膀胱、腎間の冷気を主り」という部分ですが、この「腎間」というのがポイントになります。
腎はご存知の通り二つあります。腎間というのは、その間にある臍下(さいか、せいか)部位を指し、この部位は、丹田(たんでん)若しくは気海(きかい)と呼ばれます。
難経(なんぎょう)と呼ばれる漢方医書の古典には、「臍下腎間の動気は、人の生命也、十二経の根本也。」と書かれています。
十二経というのは、正式には「正経十二経(せいけいじゅうにけい)」と呼ばれ、メインの経絡全てを指します。つまり、腎間の動気というのは、身体を動かしている気の根本である、ということになります。
ここまでで、腎間の動気は、生命の根本であり、これが身体を動かしている気ということが解りました。しかし、古来、この「腎間」の部位については諸説あり、定まっていません。
私の見解を述べます。
私に教えて下さった漢方の先生は医師なのですが、漢方の証決定時に臍下を必ず確認されます。その時、臍下丹田が冷えていた場合、桂枝(桂皮)を使用されていました。
また、その先生と同門の先生の講義にて「桂枝(桂皮)は腎の陰火を腎間に引っ張りだす剤である。」と習った記憶があります。
このことより、腎間の動気というのは、解剖学的にはそれを蔵する臓は存在せず、ただ気だけが存在すると考えます。
茴香は、その腎間の動気を増やして脾胃に供給する剤になり、更に、本生薬は安中散という胃薬に使用されており、条文にも胃腸を補う効が書かれています。
これらの情報をまとめて考察を加えますと、最終的に茴香の効は「腎間の陽を補い、その冷を去り、その陽気を脾胃まで持ち上げそれらの動きを整える」となります。
そうすることで、冷えて胃の動きが悪いもの、腸の動きが悪いもの、痛むものを改善します。
簡単に言い換えますと、「腎から陽気を脾胃に持ち込んで温め、動かす生薬」と言えます。ですので、結局のところ「茴香は脾胃の陽虚に対する生薬」ということになります。
最後に、桂枝や桂皮との違いをご紹介します。
桂枝や桂皮は、腎間に陽気を引っ張り出して腎間の動気を補い、それを胃腸を経て肺に持ち込み、最終的に表へと持ち上げ発散させます。
これが、経枝・桂皮が表虚に使用される理由であり、「百薬を導く」と言われる所以です。処方全体のベクトルを表に向ける働きがある訳です。
桂枝・桂皮が入らないということは、「表に問題が無い」若しくは「裏に問題があって表に気を回す余裕がない」のどちらかです。
ですので、処方を見た時に、桂枝・桂皮の有無を真っ先に確認する必要があります。
茴香の場合、腎間の動気を補って脾胃まで持ち上げるという所で作用が終了し、主に持ち上げられた陽気は脾胃を動かす為に用いられます。
ここが、桂枝・桂皮との違いになります。
また、注意点として、附子や乾姜が要るような裏寒(腎陽虚)や胃熱等の脾胃の実熱には使用不適であることが解ります(私案)。
前者の場合、腎の陰火が無いのに茴香で無理やり出す事となり、裏寒が悪化します。この場合、温裏剤である真武湯や附子理中湯、人参湯等が適します。
後者の場合は、胃の実熱があり、これ以上温めると邪熱が旺盛となってしまう可能性がある為です。この場合、調胃承気湯や大黄甘草湯等の大黄剤が検討されます。
前者後者それぞれ、茴香が含まれておりませんので、その裏付けになります。
茴香は、よく使う漢方処方には安中散しか含まれておらず、結果として桂枝・桂皮の注意点さえ守っておけば失敗することはありません。
しかし、その背景には今回論じたことが隠れていることを覚えておくといいでしょう。
(追記)
腎熱に対しても茴香は不適です。理由は、胃熱と同じで邪熱を悪化させてしまう為となります。
代表処方
安中散
安中散は、胃もたれ、消化不良に対する処方として有名です。
漢方医学では、口の周りの炎症がある場合は脾胃の状態が悪く、湿邪や食滞などがあると考え、安中散が投与されます。
安中散の中に配されている茴香は、冷えた脾胃を温め、動かすことでその働きを益す効能を持ちます。
牡蛎や桂枝(桂皮)等、脾胃の力を使う生薬も配されていますので、それの副作用防止という側面もあります。
安中散の詳しい解説は、以下の記事で書いています。是非ご覧ください。
【漢方:5番】安中散(あんちゅうさん)の効果や副作用の解りやすい説明
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最後に
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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