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【漢方生薬解説】茵陳蒿(インチンコウ)【日本薬局方】

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茵陳蒿

茵陳蒿

こんにちは。「名古屋漢方」ブログのムセキです。

本記事は、茵陳蒿(インチンコウ)についての解説記事になります。日本薬局方収載の生薬のうち、日本で使われている漢方処方に配されているものを抜粋しています。

名前(日本名、ラテン名、英名)と写真、基原、製法、成分、性味・帰経、本草書(昔の薬草辞典)の記載、注意、私の考察(私見)、代表処方中の役割をご紹介します。

日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。

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生薬名

ムセキ
日本語名、ラテン語名、英名の順でご紹介します。

日本語名

茵陳蒿(インチンコウ)

ラテン語名

ARTEMISIAE CAPILLARIS FLOS

※CAPILLARIS(キャピラリス)はラテン語で「毛細状の、毛に似た」という意味です。よく科学実験で使う「毛細管」というものがありますが、それを「キャピラリー」と呼ぶ場合もあります。語源は同じです。

英名

Fragrant wormwood flower

写真

ムセキ
Wikipedia様へリンクしています。

茵陳蒿(インチンコウ)

※実際の煎じ薬を作る際に用いる刻みの状態は、サラサラフワフワとした粉に近い小さな花となります。色も緑に近い色で、一見して花部とは思わないです。

基原

ムセキ
基原というのは、生薬の原材料である動植物や鉱石を指します。

キク科(Compositae )のカワラヨモギ(Artemisia capillaris Thunberg)

製法

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茵陳蒿(インチンコウ)の製造過程をご紹介します。

キク科(Compositae )のカワラヨモギ Artemisia capillaris Thunberg(Compositae)全草(地上部)を刈り取り、陰干し,または温風乾燥した後,頭花を集める。

※製法は、大抵の生薬が採取後何かしらの処理を加えるのに対し、茵陳蒿は全草部を刈り取り乾燥させ、その後、頭花を集めるという逆のプロセスとなっています。このような部分に古人の知恵を感じます。

成分

ムセキ
本生薬から抽出・同定された成分をご紹介します。

クマリン類(ジメチルエスクレチン)、クロモン類(カピラリシン)、フラボノイド、モノテルペノイド等

性味・帰経

ムセキ
「性味」「帰経」とは、漢方での生薬の働きを分類する方法を指します。

性味

味:苦、辛

性:微寒

帰経

帰経:膀胱

※本生薬も、威霊仙と同じく膀胱経に入ります。排出というのは陽から陰への流れ(不要なものを出す=瀉剤)ですので、膀胱が帰経であるというのにも納得が行きます。

本草書の記載

ムセキ
本草書(和語本草綱目)の条文をご紹介します。

小便を利し、黄疸を除く。頭熱、頭痛を去る。

注意

ムセキ
漢方医学上の注意点をご紹介します。

胃気の不足するもの、下虚して小便を漏らすものには用いることは出来ない。

考察

ムセキ
茵陳蒿(インチンコウ)についての考察・私見です。

和語本草綱目の条文は非常に短いので、補足し解説いたします。

茵蔯蒿は、太陽膀胱経に入り、小便を利しながら、湿熱を除く作用を有する。特に、黄疸を除く要剤として古来より使用されてきました。

また、頭熱や頭痛を治すのも、湿熱の欝滞にて起こしているものがあり、茵蔯蒿を用います。茵蔯蒿の特徴は、太陽膀胱経に入り湿熱を除去するという特徴を備えている所です。

膀胱経は頭頂より始まっており、そのことから、上焦から中焦にかけての湿熱を除去するものと考えられます。その結果、膀胱経を通し、活性化させます。

湿熱による膀胱経の運行不全が、肝胆の湿熱の悪循環を果たすからです。少し詳しくご説明します。

肝という部位にて湿熱の原因となりうる胆汁が生まれ、胆という臓器はそれを貯留します(正常に流れている場合は胆汁は湿熱ではない)。

しかし、その排泄は胆管(遠位胆管)であり、この部位は左上から右下にかけて胆汁を排泄します。

この部位に何らかの障害(胆石等)が出ることで、胆汁が詰まって逆流する状態が黄疸であり、漢方医学においては湿熱の貯留と判断され、茵蔯蒿配合処方が考慮される病態になります。

この排出という動きは、陽から陰への流れそのものになります。

漢方医学において、左は陽で右が陰とされています。つまり、陽は降る訳です。この「通常ルートで外に常時排出する」という役割は、発汗のプロセスと酷似しています。

このことから、茵陳蒿が膀胱経に入るというのも納得ができます。

ちなみに、排出の経路は基本的に気血水で分かれており、気は口・鼻・皮膚より主に排出される為に肺と膀胱が、水は膀胱、血は大腸と脾胃がメインで主ります。

湿熱の場合はドロドロしていていも液体ですので、膀胱の管轄下に入るという訳です。

少し話が変わりますが、威霊仙も膀胱経に入る生薬です。威霊仙の場合は冷えを伴う風湿の邪を除く剤で、その性は温になります。

茵陳蒿の性は微寒で、湿熱を除くという性質上、威霊仙とはある意味対照的な生薬と言えます。

つまり、同じ瀉剤であっても茵陳蒿が必要な場面では威霊仙という選択肢はなく、逆もまた正になります。セットで覚えておくといいでしょう。

頭熱、頭痛を去るというのは、おそらく湿熱が除去され、膀胱経が通じた結果起こる効果と考えられます。これは、麻黄も同じことが言えます(葛根湯で肩こり頭痛に対し使う理由と同じ)。

茵陳蒿使用上の注意点です。「胃気の不足するもの、下虚して小便を漏らすものには用いることは出来ない。」と書かれていますが、胃気の不足というのは脾胃の虚があるもので、下虚して小便を漏らすというのは腎虚や裏寒などの虚状の存在を示唆します。

前者に茵陳蒿を使用しますと気虚は悪化し、後者は茵陳蒿の性が微寒であり湿熱を除く為、裏寒を増悪してしまう可能性があるためです。

前者の治療には人参湯などの捕気剤が、後者の場合は真武湯等が使われます。もしそれらが無い場合、太渓(たいけい)というツボにお灸をしたり足湯をすることで改善します。

身体の冷えや気虚を改善することで、身体は急速に回復します。

茵陳蒿に限らず、瀉剤を使用する場合は、虚に落ちた場合の対処法を常に頭に入れておく必要があります。

瀉剤の使用は、慎重に慎重を期した位で丁度よく、逆にそうすることで非常に劇的な効果を得ることが出います。

そうしないと、知らず知らずのうちに患者さんを反って苦しめてしまう結果になることがあります。十分にご注意ください。

代表処方

ムセキ
代表的な処方について、ご紹介します。

茵陳蒿湯

茵陳蒿湯は、黄疸に対する処方として有名です。頭のみ汗をかき、尿が出ず、身体が黄色くなるものを治す、とされています。

「身体の発汗が無く、尿が出ない」というのは膀胱経の運行不全である証を示しています。茵陳蒿は本処方の君薬であり、膀胱経が湿熱で閉じているものを貫き通し、それを去ることで運行を改善させます。

茵陳蒿湯について、詳しくは以下の記事をご覧ください。

参考記事
【漢方:135番】茵陳蒿湯(いんちんこうとう)の効果や副作用の解りやすい説明

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茵蔯五苓散

茵蔯五苓散は、黄疸の証があって水を飲んですぐ吐く、頭痛、発熱等の五苓散証も兼ねるものに使用します。

桂枝湯に葛根と麻黄を加えて葛根湯が作られ、頭部にうっ滞した気を全身に巡らせるのと同じように、五苓散に茵陳蒿を加えて全身の湿熱を去る処方です。

本処方でも、茵陳蒿湯と同じように茵陳蒿は湿熱を排出して黄疸を治療する生薬として配されています。茵蔯五苓散について、詳しくは以下の記事をご覧ください。

参考記事
【漢方:117番】茵蔯五苓散(いんちんごれいさん)の効果や副作用の解りやすい説明

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最後に

ムセキ
他の記事も宜しくお願い致します。

以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。

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