ポイント
この記事では、補中益気湯についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方.com」のムセキです。
本記事は、補中益気湯についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は補中益気湯という漢方薬が出ています。
この処方は、元気が無くなった時、息切れした時等によく使われます。今日はどのような症状でかかられましたか?
〇〇という症状ですね。先生はこの処方で良くなると診断されているようですので、一度試してみて下さい。
身体の冷えが強い場合は、効果が出ない事もありますので、足湯やレッグウォーマーをするなどして、身体を冷やさないように注意すると良いでしょう。
漢方医処方の場合の説明
今日は補中益気湯という漢方薬が出ています。この処方は、一般的には元気が無くなった時、息切れした時等によく使われます。
しかし、元々はストレスを受けやすい方で、疲れや胃腸虚弱の上半身の炎症や発熱、咳等があって、という状態の時に用いられたお薬です。
今日はどのような症状でかかられましたか?
〇〇という症状ですね。先生はこの処方で良くなると診断されているようですので、一度試してみて下さい。
身体の冷えが強い場合は、効果が出ない事もありますので、足湯やレッグウォーマーをするなどして、身体を冷やさないように注意すると良いでしょう。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
偽アルドステロン症
間質性肺炎
肝機能障害、黄疸(AST、ALT、Al-P、γ-GTP等の著しい上昇)
発疹、発赤、そう痒等
食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、腹痛、下痢等
冷え
添付文書(ツムラ41番)
補中益気湯についての漢方医学的説明
生薬構成
黄耆4、蒼朮4、人参4、当帰3、柴胡2、大棗2、陳皮2、甘草1.5,升麻1、生姜0.5
出典
内外傷弁惑論、脾胃論
条文(書き下し)
「…内傷(ないしょう)は不足の病なり。苟(いやし)くも誤認して外感有余の病と作して反(かえ)って之を瀉するときは,則ち其の虚を虚するなり。…蓋(けだ)し温は能(よ)く大熱を除く。大いに苦寒の薬にて胃土を瀉することを忌むのみ。今,補中益気湯を立つ。」
「若し飲食失節し,寒温不適ならば則ち脾胃は傷(やぶ)る。喜、怒、憂、恐は元気を損耗す。既に脾胃の気衰え元気不足ならば, 而(そ)の心火は獨盛(どくせい)す。心火の者,陰火也。」
条文(現代語訳)
「…内傷という状態は不足の病です。能力不足にて証を誤認し、外感有余の病と診断して反って之を瀉してしまう時は,つまりその虚を虚してしまう事になります。…恐らく温という治法は、よく邪熱を除くのでしょう。思い切り苦寒の薬にて胃土を瀉してしまう事を忌ましめないといけません。そういう事で、この補中益気湯を作りました。」
「もし飲食を不摂生し,季節の寒暖に合わない生活ならば、すぐに脾胃は傷ついてしまいます。喜、怒、憂、恐という感情は元気を減らします。既に脾胃の気が衰えて元気の不足があれば, その心火は独り盛んになります。心火というのは,陰火です。」
解説
別名「医王湯」と呼ばれる補中益気湯ですが、条文と生薬構成から見てみますと非常にクセの強い処方だと言えます。
現代では、「元気が無い→気虚→補中益気湯」のように簡単に使われていますが、そう単純ではありません。
創方者の李東垣先生の創方意図に沿って使うべき処方と言えます。今から、その意味についてご説明します。
まず、条文を見てみます。
簡単に言いますと、「内傷という不摂生による胃腸の虚状は、上焦に邪熱を引き起こす。それに対する方剤として補中益気湯を作った。」という事になります。
生薬構成を見ましても、その通りの内容となっています。
まず、この処方は四君子湯から出発しております。しかし、恐らく李先生の意図としては、四君子湯に陳皮を足した「異効散」という処方が念頭にあったことでしょう。
この異効散から始めると、非常に処方の理解がしやすくなります。
その仮定から考えますと、補中益気湯は「異効散に肺気を補う黄耆と心血を補う当帰を加え、升提作用を入れる為に柴胡と升麻を加えたもの。」という事が簡単に理解できます。
落ち込んだ元気を引っ張り上げる処方という事になります。
元気を引っ張り上げて、肺気を補う事で、肺機能を復活させ、心から来る体外に排出すべき熱を排出させます。上焦の邪熱を除く処方と言っても良いでしょう。
しかし、そこには注意点があります。
まずは柴胡の存在です。柴胡は肝鬱を除く生薬になりますが、逆に言いますと、「柴胡が配されているという事は、補中益気湯という処方は精神的なストレス邪気を持っている患者用の薬」と言えます。
簡単に言いますと肝熱によるイライラが存在するという事になります。
ですので、本処方を使う上では神経質な方というのが前提になります。
また、もう一つの注意点ですが、それは「気が上がる為に、長期服用では下半身の虚を招く可能性がある。」というものです。
本来、漢方の治療方針の原則は「頭寒足熱」であり、上焦に熱や気の滞留があってはなりません。
この補中益気湯が気を上に引っ張り上げる処方だとしても、最終的に経を巡らせ、気を下に降ろして下半身を充実させる、という考えを念頭に入れて置かないといけません。
その考えを持たずに本処方を使い続けるとどうなるか?答えはすでにお話しましたが、下半身が虚してきます。
高齢者の方で、このような状態になり、冷えて足腰が弱っている方をしばしばお見掛けします。
その様な場合は六味丸を使用して対処しますが、そのような誤治をしないようにしたいものです。
また、男性不妊に使用する場合も多いですが、長期連用の場合は効果が無くなる可能性も考慮すべきです(若しくは足腰の弱りが出る可能性がある)。
まとめますと、補中益気湯は「神経質で胃腸虚弱な者の発熱炎症性疾患」に使う方剤であり、長期連用で冷えが来たり、下半身の虚状が出てくる可能性がある、という事が言えます。
私の経験ですが、痩せていて長身、目つきの鋭い人が「イライラした時に呼吸がし辛くなる、咳が出る。」と言って相談された時に使って、よく効いた記憶があります。
鑑別
補中益気湯と他処方との鑑別ですが、有名な所で十全大補湯、六君子湯を取り上げます。
二処方共に、補中益気湯と同じ四君子湯の骨格を持っておりますので、他の生薬での違いがそのまま処方の差になります。
十全大補湯
十全大補湯は、簡単に言いますと四君子湯に四物湯を加えた八珍湯に、黄耆と桂枝を加えた処方となり、気血両補剤と呼ばれる処方となります。
この処方には、補中益気湯のように柴胡が入っておらず、また、升麻も入っておりませんので、ストレスが溜まったような目つきの鋭さが無く、気の落ち込み具合も酷くは無いです。
また、食欲があり、そこそこ肉付きもよく、桂枝湯類のような逆上せがあるのが特徴です。
精神的にも安定していて、ちょっと疲れが、という感じの処方になります。
補中益気湯は、痩せていて顔色が白く、眼付きがするどく、胃下垂等の気の落ち込みがり、食欲もあまり無い事を考えると、似ている様で全然別の処方だと言えます。
十全大補湯は血を補える程に胃腸の調子が回復している、と考えますので、虚状は補中益気湯の方が上になります。
六君子湯
六君子湯は四君子湯に陳皮半夏を足した処方となります。
四君子湯に陳皮だけを足した処方は「異効散」と呼ばれ、六君子湯と四君子湯との中間となります。
六君子湯は、胃にべったりとした湿邪があり、また、胃腸の力も弱いので、補中益気湯と同じように食欲が無くなってきます。
しかし、補中益気湯の様に目つきの鋭さが無く、そこまで神経質でもなく、気が落ち込んでいる事もありません。
また、六君子湯の場合は口が匂う等の症状も出てきます(胃で湿邪の詰まりがあるので、その手前の口では熱を持つ)ので、その辺りで鑑別する事も出来ます。
お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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