こんにちは。「名古屋漢方」ブログのムセキです。
本記事は、烏薬(ウヤク)についての解説記事になります。日本薬局方収載の生薬のうち、日本で使われている漢方処方に配されているものを抜粋しています。
名前(日本名、ラテン名、英名)と写真、基原、製法、成分、性味・帰経、本草書(昔の薬草辞典)の記載、注意、私の考察(私見)、代表処方中の役割をご紹介します。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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生薬名
日本語名
烏薬(ウヤク)
※「鳥(とり)」ではなく、「烏(からす)」と表記します。烏はご存知の通り黒いのですが、烏薬の基原植物「テンダイウヤク」の実が黒いこと、また、補腎の効があることから「烏薬(ウヤク)」と名付けられています。基原植物そのままに、「天台烏薬(テンダイウヤク)」とも呼ばれています。
ラテン語名
LINDERAE RADIX
英名
Lindera Root
写真
※写真を見て頂くと解りますが、実が烏(からす)のように黒いのが特徴です。この黒い色というのが、生薬の語源と言われています。
基原
クスノキ科(Lauraceae )のテンダイウヤク(Lindera strychnifolia Fernandez‐Villar)の根
製法
クスノキ科(Lauraceae )のテンダイウヤク Lindera strychnifolia Fernandez‐Villarの根を採取し、洗浄し,日干する。
成分
烏薬(ウヤク) モノテルペン類( l-ボルネオール等)、セスキテルペン類( リンデラン、リンデレン、リンデララクトン、リンデステロン等)、アルカロイド類( ラウロリチン等)
性味・帰経
性味
味:辛
性:温
※辛という味は、基本的に「発散する」若しくは「温めるもの」に対して使われます。
帰経
帰経:胃、腎
※烏薬は足の陽明胃経と足の少陰腎経に入りますが、足の陽明胃経に入るということは、気の下降剤であることを意味しています。それと同時に、足の少陰腎経に入ることは、下半身を補う、または温補するということを意味します。これは烏薬という名が示す様に、黒であり、腎を補う効果が大であることを意味しています。
本草書の記載
結ぼれる気を散ずる。気は流れている時は有益である。水も又、適度の流れを有している時は、正常である。滞れば必ず澱み濁りを生じる。血液も又同じである。流れておれば固まることもなく、腐ることもなく、生体に活力を与えてくれるものであるが、ひとたび滞ると、弊害を発す。それらを結気、汚水、瘀血と言う。烏薬は、その結爵の気を散ずる作用を有している。同時に温めながら気の滞りを治す作用を有しているので、脱気させることが少なく、気を散ずる事ができる。即ち、生体の正常な生理機能を止めている邪気を散ずるが故に、脳の機能を正常化し、中風脚気を治す。結気を散じて、気を下降させるが故に、疝気(せんき:腰部腹部の痛み)、厥頭痛(けっとうつう:気の逆上で起こる頭痛)を治す事も出来る。芎帰調血飲の処方構成の中に、烏薬を組み込むのは、血の道で生じた、精神的な障害や気の欝滞を、香附子とともに振り払う作用を担っている。また、結気のさかのぼるの防ぐことによる腫脹、喘急(喘息)、小便頻数、白濁、反胃吐食(ほんいとしょく:食べたものを吐く)、瀉痢、霍乱(かくらん:下痢嘔吐を伴う激しい症状の病気)、心腹痛、宿食(しゅくしょく:消化不良)、中悪(ちゅうあく:悪心)、鬼気(きき:精神不安、イライラ)、疫癘(えきれい:伝染病)、小児の虫(むし:疳の虫)を去る。腎膀胱の冷気が背中をつくのを除く。婦人の血気痛を除く。癤(せつ:おでき)、疥(かいせん:皮膚病の疥癬)、癩(らい:ハンセン病)、犬猫の百病に効果ありと言われている。
注意
烏薬は順気し、気を散じる、その効果は香附子とは比べものにならない程激しい。烏薬は真気を下してしまう恐れがあるからである。
久しく過用してはならない。もし長期服用する場合には、参耆(人参や黄耆)と併用するべし。中気中風を治するといえども、細やかに虚実の程を把握するべきである。
内熱のあるものには注意を要する。
考察
烏薬(ウヤク)という名前は、基原植物の果実色が黒い所から名付けられています。烏薬の基本的な作用と一番の使用目標は、順気ということに集約されます。
その代表的な処方として烏薬順気散や芎帰調血飲という処方が存在します。
前者は気の運行が悪く、身体に疼痛が起きるもの、または卒中などの後遺症に用いられ、後者は産後女性の気滞を伴う血の道証に用いられています。
いずれにしても、この烏薬という生薬は、ただ、気を散じて下降させることを目的にしています。
烏薬にしても、香附子にしても、更に、木香に至っても、気の順行、または三焦にわたり気を巡らせる薬剤は、結果的に血の滞りをも解除する事が出来るのは、経験的に非常に良く知られています。
このことは、瘀血の発生メカニズムを知る上において非常に大切なところです。
厥冷、厥陰の厥という字は「逆上する」との意味になります。つまり、順気作用を持つ烏薬は、気逆による頭痛にも効があると言えます。
更に、卒中などの後遺症や出産後の気の逆上(ふらつき、眩暈、不安感、睡眠不良などの症状)等にも応用できると考えられます。
腹部の腫脹に応用されるのは、気の下降が出来ないときに、腹部の力が落ちて腫れると考えられます。
また、烏薬の特色として、補腎温補に効果を有するため、気の下降と同時にその気を腎部に集め、腎または膀胱の冷気を去る効果を有しているため、泌尿器疾患などへの応用も考えられます。
条文の「腎膀胱の冷気が背中をつく」というのは腎結石や尿路結石等を指すものと思われます。
その後の「中悪、鬼気」ですが、結局のところ、上焦に気が停滞しているが故に、精神不安やイライラ、不眠等の症状が出てくる為、その気が下焦に流れればそれらの症状は改善されるということになります。
「婦人の血気痛を除く」というのは月経時等の生理痛と考えられます。これも、気の下降不足から生理が順調に下りない時に起きるものであると考えられます。
「癤・疥・癩」に関しては、結気を散じることで皮膚病全般に使用できるという意味で良いかと思われます。
「犬猫の百病に効果あり」というのは、使用経験が無いためよく解りません。ですが、「百病」というのは少し言い過ぎだと思います。
注意点ですが、結気を散ずるということは、そこにある正気も損耗することを意味しています。ですので、脾虚や裏寒等の虚状がある場合、心気虚等の上焦の虚がある場合は使用に注意が必要です。
また、裏位に実熱の邪がある場合も注意が必要です。これは、腎が裏中の裏の為であるからです。
代表処方
芎帰調血飲
芎帰調血飲は、「産後一切の気血を調理する」と言われる産後の女性に対する処方です。
瘀血と気滞があるのがその所見で、烏薬は香附子と組んで気滞を破り気を下降させる目的で配されています。
芎帰調血飲の詳しい説明は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:230番】芎帰調血飲(きゅうきちょうけついん)の効果や副作用の解りやすい説明
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最後に
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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